遺産分割協議書を雛形から自分で作成して法務局に提出するための知識
2024年4月いよいよ相続登記の義務化が始まりました。
不動産を相続したら、所有権移転登記を早めに済ませましょう。登記は、その不動産がある地域を管轄する法務局で行います。
この記事では、遺産分割協議書や遺産分割協議証明書を法務局に提出するための知識について説明します。
目次
用語の説明
まず、簡単に次の用語の説明をします。
- 遺産分割
- 遺産分割協議
- 遺産分割協議書
- 遺産分割協議証明書
遺産分割とは?
遺産分割とは、亡くなった人が所有していた財産(遺産)を、その人の死亡と同時にもらい受ける権利のある人が複数いる場合に、その人たちの間で遺産を分けることです。
遺産分割は、相続人等の遺産を受け取る権利がある人が複数いて、かつ、遺言によってすべての財産の処分(受取先)が決まっていない場合に必要です。
遺産分割を受ける権利を持っているのは、次のいずれかに該当する人です。
- 共同相続人
- 包括受遺者
- 相続分譲受人
共同相続人とは、法定相続人(民法の定めにより相続人となる人)が複数人いる場合に、遺産分割前の相続財産を共有している状態の相続人のことです(共同相続人について詳しくは「共同相続人とは?定義や法定相続人との違いについてわかりやすく説明」参照)。
包括受遺者とは、包括受遺者(ほうかつじゅいしゃ)とは、遺贈(遺言によって財産を贈られること)の対象となる財産を特定せずに、積極財産(プラスの財産)も負債などの消極財産(マイナスの財産)も包括的に承継する遺贈(包括遺贈)を受けた人のことです(包括受遺者について詳しくは「包括受遺者とは?相続人との違いや、包括受遺者が参加する遺産分割協議について解説」参照)。
相続分譲受人(「そうぞくぶん ゆずりうけにん」または「そうぞくぶん じょうじゅにん」)とは、相続人から、その相続分を譲り受けた人のことです(相続分の譲渡について詳しくは「相続分の譲渡と手続き方法 メリット・デメリット、税金や相続放棄との違いまでわかりやすく解説」参照)。
遺産を受け取る権利がある人が1人以下しかいないか、または、遺産を受け取る権利のある人が複数いたとしても遺言によってすべての財産の処分(受取先)が決まっている場合には、遺産分割は不要です。
遺産分割について詳しくは「遺産分割協議書の作成の目的は?メリットデメリットから書き方、よくある疑問まで完全解説」をご参照ください。
遺産分割協議とは?
遺産分割にあたって遺産の分け方を決めるために行う協議のことを遺産分割協議と言います。
遺産分割協議書とは?
遺産分割協議の結果を書面にしたものを遺産分割協議書と言います。
遺産分割協議書について詳しくは「遺産分割協議書のひな形をダウンロードして自分で簡単に作成する方法」をご参照ください。
遺産分割協議証明書とは?
遺産分割協議証明書も、遺産分割協議書と同様、遺産分割の結果を書面にしたもので、遺産分割証明書と呼ばれることもあります。
遺産分割協議証明書と遺産分割協議書の違いは、各遺産の取得者が個別に証明するものが遺産分割協議証明書、すべての相続人がまとめて証明するものが遺産分割協議書です。
遺産分割協議証明書について詳しくは「遺産分割協議証明書の正しい書き方とひな形、遺産分割協議書との違い」をご参照ください。
遺産分割協議書と遺産分割協議証明書、それぞれを利用すべきケース
相続人が近くに住んでいる場合は、全員が一堂に会して遺産分割協議書に署名・押印することができるので、このような場合は、遺産分割協議書が適しています。
しかし、相続人全員が集まることができない場合は、郵送等で各相続人に順次回していき、署名・押印を集めることもできます。
相続人の数が多いと、全員の署名・押印が終わるまでに日数がかかるでしょうし、途中で紛失することもあるでしょう。
この点、遺産分割協議証明書の場合は、各相続人が個別に署名・押印することができるので、遺産分割協議書の場合よりも日数が短縮できることが期待できますし、途中で紛失されて一からやり直しということもありません。
したがって、相続人の数が多く、かつ、散り散りに住んでいる場合は、遺産分割協議書よりも遺産分割協議証明書の方が便利であるといえます。
しかし、遺産分割協議証明書にも欠点があります。
遺産分割協議書の場合は、各相続人がそれぞれ原本を1通ずつ持ちますが、遺産分割協議証明書の場合は、基本的には代表者しか原本を持ちません。
後述の通り、遺産分割協議証明書や遺産分割協議書は、相続手続に用いるものです。
一人が代表してすべての相続手続を行う場合は、遺産分割協議証明書で問題ありませんが、それぞれが相続手続を行うのであれば、遺産分割協議書の方が便利でしょう。
遺産分割協議や遺産分割協議証明書を法務局に提出するのはどんなとき?
遺産分割協議書や遺産分割協議証明書を法務局に提出するのは、遺産分割によって不動産を取得した人が、その不動産の所有権移転登記をするときです。
相続登記は、通常、司法書士に依頼しますが、自分で行うことも可能です。
相続登記の申請は、その相続不動産を管轄する法務局で行います。
全国の法務局とその管轄エリアは、法務局の「管轄のご案内」ページで確認することできます。
登記には登記原因証明情報が必要ですが、遺産分割協議によって不動産を取得した場合は、遺産分割協議書(または遺産分割協議証明書)等が登記原因証明情報となります。
遺産分割協議書と遺産分割協議証明書の法務局の雛形ダウンロード
遺産分割協議書の様式に決まった様式はありません。
縦書きでも横書きでも構いませんし、パソコンで作成しても手書きで作成しても、いずれでも問題ありません。
主な決まり事としては、遺産分割を受ける権利を持っている人(共同相続人、包括受遺者、相続分譲受人)の全員が押印するということと、複数枚に及んだ場合はページのつなぎ目に契印を押すということが挙げられます。
法務局が作成した雛形が公開されているので、以下のリンクからダウンロードしてご参照ください。
また、姉妹サイト「遺産相続弁護士ガイド」が作成した雛形は以下のリンクからダウンロードすることができます。
遺産分割協議証明書には、すべての財産を記載する方式と、自分の取得した財産だけを記載する方式があります。
- 遺産分割協議書の「遺産相続弁護士ガイド」作成の雛形
- 遺産分割協議証明書の「遺産相続弁護士ガイド」作成の雛形(すべての財産を記載する方式)
- 遺産分割協議証明書の「遺産相続弁護士ガイド」作成の雛形(自分の取得した財産だけを記載する方式)
遺産分割協議による所有権移転登記に必要な書類
遺産分割協議による所有権移転登記には次の書類が必要です。
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票
- 相続人全員の現在の戸籍謄本
- 登記する不動産を取得する相続人の住民票
- 最新年度の固定資産税評価証明書または固定資産税納税通知書
- 遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑証明書
なお、法定相続情報証明制度を利用する場合は、上記の1〜3の書類は不要です。
法定相続情報証明制度とは、相続人が法務局(登記所)に必要な書類を提出し、登記官が内容を確認した上で、法定相続人が誰であるのかを登記官が証明する制度です。
この制度を利用することにより、相続登記を含む各種相続手続で戸籍謄本一式の提出の省略が可能となります。
提出書類の原本を還付してもらう方法
提出書類の原本を還付してもらう方法には、次の2つがあります。
- コピーを所定の方式にのっとって併せて提出する
- 相続関係説明図を添付する
以下、それぞれについて説明します。
コピーを所定の方式にのっとって提出する
コピーを所定の方式にのっとって提出することによって、前述の1〜7のすべての書類の原本の還付を受けることができます。
コピーした書類の空いたスペースに「この写しの内容は原本と相違ありません。」と書き、署名(または記名)押印をします。
この押印は登記申請書に押印した印鑑でしなければなりません。
すべてのコピーに上記の文言を書くのは大変なので、1枚だけに書いて、それぞれの書類の間に契印(割り印)をしても構いません。
相続関係説明図を添付する
相続関係説明図を添付することによって前述の1と3(以下に再掲)の原本の還付を受けることできます。
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本
- 相続人全員の現在の戸籍謄本
相続関係説明図とは、亡くなった人の相続人が誰で、各相続人が亡くなった人とどのような続柄なのかという相続関係を説明するための家系図のような図のことです。
遺産分割協議書等の登記簿附属書類の閲覧方法
遺産分割協議がまだ済んでいないはずなのに所有権移転登記がなされている等、不可解な登記がなされている場合、どのような登記証明情報に基づき登記申請がなされたのか等、登記申請時の附属書類を確認したい場合があります。
そのような場合に、登記申請時の附属書類を確認するには、法務局に登記簿附属書類閲覧申請書を提出して、その閲覧を申請します。
この申請ができるのは、利害関係人のみです。
利害関係人に当たるのは、例えば、法定相続人、包括受遺者、相続分譲受人、その不動産の受遺者、その不動産の受贈者(贈与を受けた人)等が考えられます。
登記簿附属書類閲覧申請書の用紙は法務局で入手することができます。附属書類の閲覧申請ができるのは、登記から30年間です。
まとめ
以上、遺産分割協議書や遺産分割協議証明書を法務局に提出する際の知識について説明しました。
相続登記については「不動産を相続するにはどうしたらいいの?相続登記について解説【行政書士執筆】」も併せてご参照ください。
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この記事を書いた人
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