遺産分割の基礎知識|遺産分割協議と遺産分割協議書【行政書士執筆】
被相続人が残した不動産や金融資産などの相続財産を調査し、財産目録を作成したらいよいよ相続財産を相続人で分けることになります。この時に、何をどの割合で誰に相続するのかということを決めるために行う協議を「遺産分割協議」と呼びます。そして遺産分割協議で決めた内容をまとめたものが「遺産分割協議書」となります。遺産分割協議書は相続手続きの中で重要な書類ですので丁寧に作成する必要があります。
この記事では遺産分割協議と遺産分割協議書について解説していきたいと思います。
遺産分割協議とは
財産目録に記載されている相続財産を誰がどのように相続するのかを決めるために行う遺産分割協議ですが、実際にはどのように行われるのでしょうか。ここからは遺産分割協議について解説していきたいと思います。
遺産分割の方法
遺産分割協議を行う形式について法律で定めはありません。しかし、参加しなければならない者や決議方法については定められています。
遺産分割協議には相続人全員が参加する必要があります。これは代襲相続人や認知を受けた者、未成年者の特別代理人、成年後見人なども参加しなければならないことを意味します。そして、遺産分割協議で決定する事項は多数決ではなく参加者全員の合意のもとで行います。すなわち、遺産分割協議で決定される事項は相続人全員の意思の合致が必要になるのです。これは法定相続分や法定相続人とは異なる相続がされることを全員の同意で決定した場合も同じです。
また、決定が全員の同意で行われることと同様に、遺産分割協議の内容を訂正し、取り消す場合にも相続人全員の同意が必要になります。このような全員の同意が必要になる遺産分割協議ですが、親族である相続人の間であっても全員の意思が合致することは難しいものです。そのような場合には正確な知識と豊富な経験を有した専門家に頼ることをおすすめします。
遺産分割協議に参加する者
先ほども解説した通り、遺産分割協議には相続人の全員が参加しなければなりません。では、具体的に誰が参加しなければならないのでしょうか。
まずは法定相続人です。法定相続人は被相続人の配偶者と子、直系尊属(父母など)、兄弟姉妹が該当します。そして、相続人の中に未成年者や認知症の方が含まれている場合には代理人が出席しなければなりません。未成年者が相続人として単独で遺産分割協議に参加し、遺産分割協議書に署名押印をすることはできず、必ず代理人が代わりに行わなければなりません。この場合の代理人は誰でも良いわけではなく、法律で定められた法定代理人が担当します。
法定代理人は通常であれば未成年者の親などが考えられますが、遺産分割協議の場合には親も相続人であることがよくあります。その場合には未成年者と親との間で利害関係がありますので、相続人である親は未成年者の法定代理人になることが出来ません。このような場面では、家庭裁判所に「特別代理人」の選任を申し立て、選任された特別代理人が未成年者の代理人として遺産分割協議に加わります。
認知症の方が相続人の場合には、その代理人として成年後見人が遺産分割協議に参加することが求められます。
既に家庭裁判所により後見開始の審判を受けている場合はもちろん、まだ受けていない場合には遺産分割協議をする前に家庭裁判所に後見開始の審判の申立てをして、成年後見人を代理人としてその後の手続きを行うことで、事前にトラブルを防ぐことが出来ます。
成年後見人には親族のほか、弁護士や司法書士などの専門家が就任することが増えてきています。
遺産分割協議のやり直し
相続人の間で遺産分割協議を通して決まった事項は、遺産分割協議書に記載して印鑑を押すことで法的拘束力が生じます。
これは一般的な契約書と同じです。遺産分割協議書に記載されていることを行わない相続人に対しては、法的にその内容を請求できることになります。他方で、先ほども解説した通り相続人の全員の同意があれば、遺産分割協議書に記載されている事項の全部または一部を変更することができます。この場合には改めて遺産分割協議を行い、その内容を遺産分割協議書に反映させます。
通常は遺産分割協議を行うまでに財産調査は終わらせておくべきですが、遺産分割協議書を作成した後に新たな相続財産が見つかることもよくあることです。この場合には、一度した遺産分割協議書の内容を有効としたまま、新たな相続財産についてのみ、再び遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成します。この場合も相続人全員で協議を行い、全員の意思の合致によって決定します。
また、遺産分割協議書を作成した後に認知された子供などの相続人が見つかった場合には、一度決定した遺産分割協議書の内容の効力はどうなるのでしょうか。この場合には、遺産分割協議書の内容は有効としたままで、新たな相続人が受けるべき相続分を各相続人に対して請求できるに過ぎません。すなわち、遺産分割協議を再度開催する必要はないということです。なお、相続人は新たな相続人の請求に応えなければなりません。
無効な遺産分割協議
遺産分割協議を開催してその内容を遺産分割協議書にまとめることは、非常に大変なことです。
しかし、相続人全員の参加や全員の同意がない場合や各相続人の意思に反した同意が行われた場合には、その遺産分割協議で決定したことは無効となってしまう恐れがあります。相続人全員の参加についてよくあるケースが代理人の選任です。先ほども解説をしましたが、未成年者や成年被後見人(認知症の方)である相続人は遺産分割協議に参加することができません。
この場合には代理人を選任する必要があるのです。このことを見落としていて、未成年者がいるにもかかわらず、裁判所の選任する特別代理人が選任されていなかったということがあり得ます。この場合にはその遺産分割協議の内容は無効となってしまいます。
また、遺産分割協議の中で民法上の詐欺や脅迫が行われた場合には、その遺産分割協議の内容も無効となります。相続人が多数いる場合や年配者が多い場合には、遺産分割協議を行うために集めることも難しいかと思いますので、無効な協議とならないように気をつけましょう。
遺産分割協議書
親族が亡くなり、相続が起きると不動産や金融資産などの遺産を相続人に引き渡す相続手続きが必要になります。相続手続きを行うためには、不動産であれば登記をするために法務局、金融資産であれば金銭などを移すために銀行などに、被相続人の遺産を誰に引き渡すのかを証明しなければなりません。
このような相続手続きを行う際に必要な書類の一つに遺産分割協議書というものが存在します。遺産分割協議書はここまで解説してきた遺産分割協議で決まった内容をまとめた書類です。
メリット①相続手続きの際に提出する
ここからは遺産分割協議書を作成することのメリットを紹介します。
冒頭で述べたように遺産分割協議書は相続手続きを行う際に利用します。例えば、銀行で預金相続の手続きをする場合、法務局で不動産の相続登記をする場合、証券会社で有価証券や株式の相続手続きをする場合、相続税の申告をする場合などがあります。しかし、この手続の際には必ず遺産分割協議書が必要になるということではなく、被相続人が遺言書を残していた場合などには遺産分割協議書が不要な場合もあります。
メリット②後々のトラブルを防ぐ
遺産分割協議書を作成するメリットの1つとして、相続人間でのトラブルを回避ができることがあります。遺産分割協議書はその名称のとおり、相続人間で遺産を分割するために協議した内容を記した書類であり、相続人間での合意によって作成されます。
なので、相続手続きが終わった後に遺産分割についてトラブルになることを防ぐためにもその内容を書類で残しておくことが重要になります。
遺産分割協議書が必要なケース
では、実際に遺産分割協議書が必要な場合について詳しく解説していきたいと思います。
金融機関で相続手続きをする場合
被相続人が資産や株式、有価証券などの資産を金融機関に預けていた場合にそれらが相続財産に該当することが考えられます。
これらの資産を相続人が金融機関から引き出す際には遺産分割協議書などの書類が必要になります。なぜなら、これらの資産は被相続人名義の口座などに預けられているため、相続人といえどもそのことを証明しない限りは金融機関から引き出すことはできないからです。相続人間で遺産分割を行った場合には遺産分割協議書を作成して金融機関での相続手続きを行いましょう。
不動産の相続登記がある場合
被相続人が建物や土地などの不動産を所有していた場合にそれらが相続財産に該当することが考えられます。これらの不動産は不動産登記上、被相続人の所有物となっているので、不動産の所有権を相続人に移すために相続登記をする必要があります。そしてこの手続きを法務局で行うためには、法務局に対して被相続人が死亡したことや自己が相続人であることなどを証明しなければなりません。
この「自己が相続人であることの証明」に遺産分割協議書を用いることができます。もちろん遺産分割協議書には該当する不動産が遺産分割によって自己に所有権が移ることが記載されている必要があります。このように相続財産の中に不動産があり、相続登記が必要な場合には遺産分割協議書が必要になります。
相続税申告が必要な場合
相続が生じて資産が相続人に移ると相続税が課されます。相続税の計算をする際に、どの相続人がいくらの資産を相続して、いくらの相続税を申告する必要があるのかを確認するために遺産分割協議書が必要になります。相続税の申告期限は被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヵ月以内となっており、期限を過ぎると納税額が増える場合がありますので、遺産分割協議書は早めに作成するほうが良いでしょう。
遺言で触れられていない相続財産がある場合
被相続人が遺言を残している場合には遺産分割協議書が不要になるケースがあります。しかし、遺言に記載されていない相続財産がある場合には遺産分割が必要になり、遺産分割協議書の作成も必要になります。
遺産分割協議書が不要なケース
ここまで遺産分割協議書が必要な場合や作成するメリットを解説してきました。しかし、遺産分割協議書が常に必要というわけではなく、不要なケースも存在します。ここでは遺産分割協議書が不要なケースについて解説していきます。
遺言書で遺産分割の方法が指定されている場合
被相続人が「有効な遺言書」を残している場合には遺言書に記載されている内容が遺産分割や遺産分割協議書に優先します。これは被相続人の意思を尊重し反映するためです。本稿において今まで解説してきた相続手続きも遺言書を用いて行うことができます。遺産分割協議書は遺言による被相続人の意思が確認できない場合に必要になると言えます。
相続人が1人しかいない場合
相続人に該当する者が1人しかいない場合には相続財産を分割する必要はなく、全てその相続人に相続されます。この場合には、遺産分割協議書を作成する必要はありません。遺産分割協議書は相続人が複数いる場合に誰が何を相続するのかを表すものと言えます。
法定相続分通りに遺産分割を行う場合
遺産の分割方法として、法律(民法)で定められた割合である「法定相続分」での分割が存在します。これによると、「配偶者1:子供1」「配偶者2:直系尊属(父母など)1」「配偶者3:兄弟姉妹1」となっています。法定相続分で相続をする場合には不動産に関する法務局での手続きにおいて遺産分割協議書の提出は求められておらず、金融機関での手続きにおいてもほとんどの場合で求められていません。遺産分割協議書は法定相続人以外または法定相続分によらない相続をする際に必要になるものと言えます。
まとめ
相続手続きは遺言書がある場合などを除いて、遺産分割協議の決定に基づいて行われます。そのため、相続人の間でトラベルとなってしまう事例も多くみられます。相続を契機に親族の間でトラブルが起きてしまうことは絶対に避けたいことです。そのようなことを避けるためにも正確な知識と豊富な経験を有した専門家に頼ることをおすすめします。
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この記事を書いた人
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