遺産分割協議書の作成方法【行政書士執筆】
財産目録をもとに遺産分割協議を開催したら、そこでの決定事項をまとめた遺産分割協議書を作成しなければなりません。
この記事では遺産分割協議書の作成方法について解説していきます。
遺産分割協議書作成前の準備
実際に遺産分割協議書を作成するためにはどのような内容を決め、どのような書類を準備する必要があるのでしょうか。ここでは遺産分割協議書作成のために必要な準備についてご紹介します。
遺産分割協議書の内容を決める
まず、遺産分割協議書の内容を決めるためには相続人を確定させる必要があります。そしてどのような相続財産が存在するのかを調査し、確定させることが必要です。
相続人の確定は被相続人の戸籍などから把握することができます。相続財産の調査では金融資産については預金通帳など、不動産については固定資産税納付書などを利用します。この2つのステップで誰が何を相続する可能性があるかを整理することができます。
また、相続財産について財産目録を作成しておくと良いでしょう。このように相続人と相続財産を整理した後は分割の仕方の確定(遺産分割協議)を行います。この分割の仕方の確定によって決まった内容が遺産分割協議書に反映されます。ここで決めなければならない内容は誰がどの相続財産を相続するのかということです。「遺産分割協議書が不要なケースとは?」で解説した通り、有効な遺言書が存在すればそもそも遺産分割協議を行う必要はありません。遺産分割協議の内容は、法定要件を欠く遺言書が存在する場合や相続人間の関係性などによって様々です。
分割の仕方の確定では相続人間でトラブルに発展してしまうことも多いので、専門的な知識を有した第三者と一緒に協議をすると良いでしょう。
必要書類を準備する
遺産分割協議書の作成をする際に必要になる書類があります。まず、相続人であることがわかるように戸籍謄本を用意しましょう。相続財産であることやその評価額などが分かりやすいように、預金通帳や固定資産税納付書、不動産登記などを用意する必要もあります。また、遺産分割協議書には相続人全員の実印での押印が必要です。これに伴って相続人は自治体に印鑑登録を行い、印鑑証明書を用意することが必要になります。
遺産分割協議書の書き方・作り方
ここからは実際に遺産分割協議書に記載する内容などについて解説していきます。
不動産についての書き方
遺産分割協議書に不動産を記載する場合には、どの不動産か認識できるように不動産登記に記載されている通りの表示をする点を注意する必要があります。
不動産の遺産分割方法としては、1つの不動産を複数人で分割するような「現物分割」、不動産を1人が相続し他の相続人に現金などを支払う「代償分割」、不動産を売却して現金を分割する「換価分割」、不動産を複数人で相続する「共有」があります。
相続手続きをする際に相続財産を第三者に(例えば金融機関に不動産の情報など)知られたくないという場合には不動産についてのみ記載した遺産分割協議書を各種手続き用に別途作成することも可能です。
預金についての書き方
遺産分割協議書に預金について記載する場合には、誰がどの銀行口座からいくら相続するのかを記載する必要があります。また、遺産分割協議書には銀行名・支店名・口座番号・口座名義人・残高などを記載する必要があります。したがって預金残高を正確に把握するために「残高証明書」を用意しておくと良いでしょう。また、一つの預金口座から複数人が相続する場合などは相続手続きなどの際にそれがわかるように記載をする必要があります。
車についての書き方
相続財産に車が含まれていて、それを相続する場合には、運輸局にてその移転手続きを行う必要があり、その際に遺産分割協議書が求められることがあります。
遺産分割協議書には車の登録番号や車台番号などを記載する必要があります。したがってそれらを正確に記載するために「自動車検査証(車検証)」を用意しておくと良いでしょう。また、車の評価額などを事前に調査したい場合には遺産分割協議の前に査定を済ませて査定書などを用意しましょう。
有価証券・株式についての書き方
遺産分割協議書に有価証券・株式について記載する場合には、預金と同様に証券口座と誰がどの株式などを相続するのかを明らかにする必要があります。その際に証券会社が発行する「残高証明書」を用意すると正確に記載することができます。また現在はあまり発行されていませんが、被相続人が「株券」を所有している場合がありますので、本棚や金庫などを調査すると良いでしょう。
財産目録をつける場合
遺産分割協議を行う前に相続財産の調査が必要ということは既に紹介しました。そしてそのタイミングで財産目録を作成するとその後の相続手続きをスムーズに行うことができます。
財産目録とは、相続財産を整理してまとめた表のことをいいます。これを作成することによって相続財産やその評価額などが明らかになり、遺産分割の際に相続人間でのトラブルを防止することができます。また、相続税を申告する際には財産目録の提出が必要になるので、遺産分割協議と並行して作成すると良いでしょう。
公正証書にする場合
遺産分割協議書の作成は相続人間で行うことができますが、その後の紛争を避けるために「遺産分割協議公正証書」を作成することもできます。
遺産分割協議公正証書は公証役場において公証人の関与の元で作成されることから、その内容について法的な不備や改ざん、変造を防ぐことができます。また、その原本は公証役場において20年間保存されるので、管理もしっかり行うことができます。
遺産分割協議書を作成したら
無事に遺産分割協議が終了し、遺産分割協議書を作成することができたら、最後にやらなければならないことがあります。ここではそんな最後の仕上げをご紹介します。
押印をする
前述した「遺産分割協議書作成前の準備」において遺産分割協議書の作成には実印が必要であることを紹介しました。遺産分割協議書を作成できたら最後にその実印を使って相続人全員の押印を行います。そして遺産分割協議書には印鑑証明書を添付する必要があります。
自治体に印鑑登録をした実印には、自治体が発行する印鑑証明書とセットで用いることによって本人確認機能が認められています。金融機関や法務局での相続手続きの際にはこの方法で本人確認が行われるので、認印で押印をしてしまわないように注意が必要です。また、遺産分割協議書が複数ページにわたる場合にはそのページのつなぎ目に相続人全員の押印が必要になります。これを「契印」といいます。
契印は遺産分割協議書に押印した印鑑と同じものを用いる必要があるので実印で押印することになります。遺産分割協議書が3ページ以上ある場合などはその全てのつなぎ目に契印をする必要があります。この場合に製本テープなどで一冊にまとめておくと、表紙と裏表紙にある製本テープと紙の境目に押印をすることで契印となります。
この他にも複数の遺産分割協議書を作成した場合には「割印」をすることになります。割印は複数の遺産分割協議書を重ね合わせ、そこに押印することでそれらがセットであることを証明します。契印と同様に割印も実印を用いて相続人全員の押印が必要になります。
相続人の人数分用意し、各自保存する
遺産分割協議書への押印が完了したら、それと同じものを相続人の人数分用意し、各自で保存します。これによって各自で相続財産の移転手続きなどの相続手続きを行うことができます。また、遺産分割協議書の通りに遺産分割が行われていないなどのトラブルを回避できるだけでなく、もしトラブルが起きてしまった場合でも、相続人が各自で遺産分割協議書を保有しているのでそれが証拠となりトラブルを解決できることも期待できます。
遺産分割協議書を使って相続手続きを行う
遺産分割協議書が完成したら、その作成の目的の一つである相続手続きを行いましょう。預金や有価証券、株式などの相続の場合には金融機関に遺産分割協議書などの書類が必要になります。必要書類の詳細は各金融機関がホームページなどで確認することができます。自動車の相続では運輸局、不動産の相続であれば法務局など行政機関での手続きの場合もそれぞれのホームページや電話で事前に必要書類を確認すると良いでしょう。
遺産分割協議書作成の注意点
ここでは遺産分割協議書の作成をする際によく発生する注意が必要な場合について紹介します。
相続人全員が集まれない場合
遺産分割協議をする際に、相続人全員が一堂に会して行うことでスムーズな遺産分割協議書の作成が可能ですが、相続人の事情や社会的状況など様々な理由によって集まることが出来ない場合があります。その際にはメールや郵便、FAXなど証拠に残る形で事前に内容についてすり合わせることが推奨されます。
また最近では、パソコンやスマートフォンなどを用いたテレビ電話なども録画ができるので、そのような方法を使うことも考えられます。そして事前のすり合わせが完了したら遺産分割協議書案を作成して郵送し、問題がないようであれば正式な遺産分割協議書を作成して押印などを行う必要があります。
今まで紹介してきたように遺産分割協議書は相続人全員分を作成し全てに押印が必要になります。このため、郵送で行う場合にはかなりの時間や労力がかかってしまいます。
相続人の中に未成年者がいる場合
未成年者が相続人として単独で遺産分割協議に参加し、遺産分割協議書に署名押印をすることはできず、必ず法定代理人が代わりに行わなければなりません。
法定代理人は通常であれば未成年者の親などが考えられますが、遺産分割協議の場合には親も相続人であることがよくあります。その場合には未成年者と親との間で利害関係がありますので、相続人である親は未成年者の法定代理人になることが出来ません。このような場面では、家庭裁判所に「特別代理人」の選任を申し立て、選任された特別代理人が未成年者の代理人として遺産分割協議に加わります。
相続人の中に認知症の方がいる場合
認知症の方が相続人の場合には、その代理人として成年後見人が遺産分割協議に参加することが求められます。
既に家庭裁判所により後見開始の審判を受けている場合はもちろん、まだ受けていない場合には遺産分割協議をする前に家庭裁判所に後見開始の審判の申立てをして、成年後見人を代理人としてその後の手続きを行うことで、事前にトラブルを防ぐことが出来ます。成年後見人には親族のほか、弁護士や司法書士などの専門家が就任することが増えてきています。
相続人の中に海外在住の方がいる場合
海外に在住している相続人が日本の住民票を抹消して海外に在住している場合には、印鑑登録及び印鑑証明書の取得ができないので、海外にある在外公館で「サイン証明書」を取得する必要があります。
せっかく帰国したのにサイン証明書の取得をしていないともう一度サイン証明書を取得してこなければならなくなりますので注意が必要です。また、相続人が集まれない場合には、「相続人全員が集まれない場合」で紹介した方法で行います。この場合にも実印と印鑑証明書またはサインとサイン証明書のどちらかの方法を用います。
遺産分割協議書後に新たな財産が見つかった場合
無事に遺産分割協議書を作成して相続手続きが全て完了した後に新たな相続財産が見つかることは相続の場面では少なくありません。
この場合に再度、遺産分割協議を行い遺産分割協議書の作成をすることはかなりの労力になってしまいます。そのため、事前にこのことを予測した文言を遺産分割協議書に規定しておくと良いでしょう。具体的には「新たな相続財産が見つかった場合には、相続人Aが全て相続する。」などの規定が考えられます。もちろん、再び遺産分割協議を行うことを規定することも可能です。
相続財産に借金がある場合
被相続人が生前に借金を負っていた場合、借金も相続財産に含まれます。つまり借金も遺産分割の対象となり、遺産分割によって被相続人の残した借金を返す義務を相続するということを意味します。しかし、遺産分割によって借金を他の相続人が相続したとしても、借金の債権者にはその効力は通用しないので、請求をされた場合、他の相続人は借金を弁済する必要があります。また、遺産分割協議書の作成後に多額の借金があることが判明した場合には、借金の存在を知った時から3ヵ月以内であれば「相続放棄」をすることができる可能性があります。
代償分割が必要な場合
不動産などの相続財産を分割する方法として「代償分割」があることを「不動産についての書き方」で紹介しました。共同相続人のうち、一部の者が相続財産を取得し、代わりに金銭などを支払うという分割方法です。
この方法を使うと不動産を共有する場合と比べて、不動産を相続した後の管理や売却がしやすくなるというメリットがあります。代償分割をした場合には、遺産分割協議書にその旨を記載しないと、相続財産の代わりとして支払った金銭に贈与税が課せられてしまう可能性があるので注意が必要です。
遺産分割協議書の作成を専門家に依頼する
ここまで見てきた通り、遺産分割協議書は相続手続きを行う上で非常に重要です。また、その作成をスムーズに行えるかどうかが、相続手続きをスムーズに行えるかに直結し、後々のトラブル回避に繋がります。
遺産分割協議書を作成する際に集まる時間を割けない場合、必要な書類を集められない場合などには相続手続きに多くの時間と労力をかけてしまいます。また、相続に関する正確な法律知識を有しており、中立的な立場に立てる者が遺産分割協議にいない場合、可能なはずの権利主張などが出来ずにトラブルに繋がるということはよく起きてしまします。これらの場合には「行政書士」や「司法書士」といった専門家に依頼することで、スムーズで正確な遺産分割協議書の作成・相続手続きを行うことが出来ます。
これらの専門家は相続手続きに関する正確な法律知識を有しているだけでなく、通常ではあまり経験をしない遺産分割協議書の作成の経験値が高いことから、相続人間のトラブルを回避することが出来ます。専門家に依頼する費用は相続財産の総額によって異なり、相続財産が1,000万円未満であれば5〜10万円程度となっています。被相続人の望まないトラブルを避けるためにも、「行政書士」や「司法書士」といった専門家に依頼すると良いでしょう。
まとめ
以上、遺産分割協議書の作成について解説をしてきました。相続は様々な要因によって複雑化し、多くの時間と労力がかかります。被相続人による遺言書が残されていない場合には、遺産分割協議書の作成が最も時間と労力のかかる作業といえるでしょう。本稿でも紹介した未成年者や認知症の方が相続人にいる場合だけでなく、相続人と連絡が取れない場合や相続人間で意見が対立してしまった場合など、多くの要因が考えられます。これらの事態に適切な対応をするため、「行政書士」や「司法書士」などの専門家に依頼するという選択もありだと思います。
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この記事を書いた人
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