遺言執行の流れと手続き、遺言執行者が必要なケースなど
遺言によって遺産をもらい受けることになった場合、どのような手続きが必要になるのでしょうか?
遺言執行の流れと手続き、遺言執行者が必要なケース等についてわかりやすく丁寧に説明します。
是非、参考にしてください。
目次
遺言執行とは?
遺言執行とは、遺言内容を実現するための行為をすることです。
例えば、遺言書に「全財産を○○○○に遺贈する」と記載されていても、遺産の名義が受遺者(遺贈を受ける人)に自然と書き換わるわけではないので、遺言執行が必要なのです。
具体的には、被相続人(亡くなった人)の預貯金を被相続人の口座から受遺者の口座への払戻しをしたり、被相続人の不動産、有価証券、自動車などを受遺者名義に変更したりといったことをします。
遺言執行は、相続人、受遺者又は遺言執行者によって行われます。
遺言執行者とは、遺言執行のために指定・選任された人のことをいいます。遺言執行者について詳しくは「遺言執行者とは?どんな場合に必要?遺言執行者の選び方と役割、報酬」をご参照ください。
遺言には、財産に関することのほか、子の認知や推定相続人の廃除といった身分に関することを定めることができますが、身分に関することについては遺言執行者でなければ執行することはできません。
また、遺贈された不動産の登記は、受遺者と、相続人全員又は遺言執行者との共同登記になりますが、相続人の中に協力しない人がいる場合は、遺言執行者が必要になります。
遺言執行の前に遺言書の検認が必要な場合
遺言執行の前に遺言書の検認が必要となる場合があります。
検認が必要となるのは、次の2つの場合です。
- 法務局に保管されていない自筆証書遺言書
- 秘密証書遺言書
他方、次の2つの場合は、検認は不要です。
- 法務局に保管されている自筆証書遺言書
- 公正証書遺言書
自筆証書遺言とは、遺言者の自筆で書かれていて、公証人が手続きに関与していない遺言のことです。(「こんな自筆証書遺言は無効!NGな記入例でわかりやすく解説」参照)。自筆証書遺言は「法務局における自筆証書遺言書保管制度」を利用することができます。
公正証書遺言とは、公証役場で公証人に遺言書を作成してもらってする遺言のことです(「公正証書遺言の効力に関する全知識!遺留分侵害、認知症、有効期間」参照)。
秘密証書遺言とは、遺言の内容を誰にも明かさずに、かつ、遺言の存在が公証人によって証明される形式の遺言のことです(「秘密証書遺言を利用すべき場合と雛形から秘密証書遺言を作成する方法」参照)。
見つかった遺言書がどの方式によるものか、その見分け方について説明します。
まず、公正証書遺言書は、封筒や表紙に「公正証書遺言」と記載されているので、見分けられます。
また、「法務局における自筆証書遺言書保管制度」が利用されている場合は、遺言書原本は法務局に保管されているので、遺言書の原本が見つかった場合は、この制度は利用されていないことが分かります。
つまり、「公正証書遺言」の記載がない遺言書原本が見つかった場合は、遺言書の検認が必要ということになります。
遺言書が見つからない場合、公正証書遺言や法務局における自筆証書遺言書保管制度が利用されていないかどうかについては、それぞれ公証役場と法務局で確認できます。
遺言の検認が必要な場合(「法務局に保管されていない自筆証書遺言」又は「秘密証書遺言」)で、遺言書に封がされている場合は、検認前に開封していけません。開封すると5万円以下の過料(行政罰)に処せられることがあります。なお、検認前に開封しても、その遺言書が無効になるわけではありません。
遺言書の検認手続については「遺言書の検認とは。遺言書を探しだす前に知っておくべき検認の全知識」をご参照ください。
相続させる旨の遺言と遺贈
遺言執行の説明に移る前に、前提知識として「相続させる旨の遺言」と「遺贈」の違いについて説明します。
どちらも遺言による財産の承継方法であることには違いはありませんが、以下のような違いあります。
まず、「相続させる旨の遺言」は、相続人に対して、相続分や遺産分割方法を指定するものです。
例えば、「妻○○○○に全財産を相続させる」とか「長男○○△△に3分の2、二男○○××に3分の1の財産を相続させる」というような遺言が相続分を指定する遺言で、「妻○○○○に以下に記載する財産を相続させる」というように記載して、ある相続人に相続させる財産を指定するものが遺産分割方法を指定する遺言(特定財産承継遺言)であり、いずれも「相続させる旨の遺言」と呼ばれます。
遺贈は主に相続人以外の人に財産を承継させたい場合に用います。
「○○○○に全財産を遺贈する」というようなもののことを「全部包括遺贈」といい、「○○○○に2分の1の財産を遺贈する」というようなものが「割合的包括遺贈」、「○○○○に以下に記載する財産を遺贈する」というようなものを「特定遺贈」と呼びます。
相続人以外の人に対しては、遺贈することはできますが、相続させる旨の遺言をすることはできません。
相続人に対しては、相続させる旨の遺言も遺贈もできますが、相続人に遺贈をすることは不動産登記が単独でできない等のデメリットがあるため、相続人に対して遺贈がされることはほとんどありません。
特段の事情がない限り、遺言書の文言が、「相続させる」となっていれば相続させる旨の遺言で、「遺贈する」となっていれば遺贈です。
遺言執行の手続き
遺言執行の手続きと必要書類について、ここでは不動産の場合を例にとって説明します。
まず、遺言書がある場合でも、ケースによって、不動産の取得者が単独で登記できる場合と、相続人全員又は遺言執行者との共同登記になる場合に分かれます。
共同登記となる場合は、次のケースです。
- 特定遺贈の場合
- 全部包括遺贈の場合
- 割合的包括遺贈の場合(ただし、相続人全員に対して割合的包括遺贈をする場合には、登記原因が相続となるとされており、遺言執行者は登記義務者になりません。)
単独登記ができる場合は、次のケースです。
- 相続させる旨の遺言のうち、遺産分割方法を指定する遺言の場合
共同登記となる場合で、遺言執行者がいない場合は、登記に相続人全員の協力が必要となりますが、相続人が協力してくれない場合は、家庭裁判所に遺言執行者の選任の申立てをするとよいでしょう。遺言執行者について詳しくは「遺言執行者とは?どんな場合に必要?遺言執行者の選び方と役割、報酬」をご参照ください(再掲)。
また、不動産以外の遺言執行については、遺言がない場合の相続手続きとの違いは必要書類ぐらいで、大きな違いはありません。
清算型遺言の遺言執行
清算型遺言とは、遺産の全部又は一部を売却し、被相続人の債務を弁済したうえで、残ったお金を、相続させ又は遺贈する遺言のことをいいます。
清算型遺言の遺言執行については、別の記事に詳しくまとめました。
「清算型遺贈(清算型遺言)の文言、遺言執行者、登記などについて」をご参照ください。
遺留分侵害額請求があった場合に遺言執行はどうなる?
2019年7月1日以降に開始した相続については、遺留分侵害額請求があっても、遺言執行に影響はありません。
遺言執行を見合わせる必要もありませんし、既に執行済み場合もそのままで構いません。
というのも、2019年7月1日に法改正があり、それまでの遺留分減殺請求の制度が、遺留分侵害額請求の制度に変更になったところ、遺留分侵害額請求では、遺留分を侵害した場合は金銭によって賠償することになったため、遺言執行への影響がなくなったのです。
他方、2019年6月30日以前に開始した相続については、法改正前の遺留分減殺請求の制度が適用されるところ、この場合には、遺留分減殺請求があった時点で遺言執行を見合わせる必要があるという考え方と、遺言執行を見合わせる義務はないという考え方があるようです。
遺留分の法改正について詳しくは「遺留分減殺請求とは?遺留分侵害額請求との違いや期限・対象を詳しく解説」をご参照ください。
よくある質問
以上、遺言執行について説明しました。
最後にまとめとして、よくある質問とその回答を示します。
遺言執行とは?
遺言執行とは、遺言内容を実現するための行為をすることです。例えば、遺言書に「全財産を○○○○に遺贈する」と記載されていても、遺産の名義が受遺者(遺贈を受ける人)に自然と書き換わるわけではないので、遺言執行が必要なのです。具体的には、被相続人(亡くなった人)の預貯金を被相続人の口座から受遺者の口座への払戻しをしたり、被相続人の不動産、有価証券、自動車などを受遺者名義に変更したりといったことをします。遺言執行は、相続人、受遺者又は遺言執行者によって行われます。
遺言執行者とは?
遺言執行者とは、遺言執行のために指定・選任された人のことをいいます。遺言には、財産に関することのほか、子の認知や推定相続人の廃除といった身分に関することを定めることができますが、身分に関することについては遺言執行者でなければ執行することはできません。また、遺贈された不動産の登記は、受遺者と、相続人全員又は遺言執行者との共同登記になりますが、相続人の中に協力しない人がいる場合は、遺言執行者が必要になります。
遺言書の検認が必要な場合とは?
検認が必要となるのは、次の2つの場合です。
・法務局に保管されていない自筆証書遺言書
・秘密証書遺言書
他方、次の2つの場合は、検認は不要です。
・法務局に保管されている自筆証書遺言書
・公正証書遺言書
遺言があっても単独登記ができる場合とは?
遺言があっても単独登記ができる場合は、次のケースです。
・相続させる旨の遺言のうち、遺産分割方法を指定する遺言の場合
まとめ
以上遺言執行について解説しました。
遺言執行者は専門家に依頼することもできます。
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この記事を書いた人
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