自筆証書遺言と公正証書遺言の違いを比較!優先されるのはどちら?
もしもの時に遺族たちが相続で混乱しないよう、遺言書を用意する方は近年増えています。しかし、遺言書にもいくつか種類があり、中でも自分で手軽に書くことができる自筆証書遺言と公証人に作成してもらう公正証書遺言のどちらを選ぶべきか、迷うケースもあるようです。この記事では、どちらの遺言書を選ぶべきか、判断の材料になるよう自筆証書遺言と公正証書遺言の違いを比較しています。
- 自筆証書遺言の作成に費用はほぼかからないが、公正証書遺言は費用がかかる
- 自筆証書遺言も法務局に保管すると費用がかかるが、改ざん・紛失のリスクは減る
- 自筆証書遺言と公正証書遺言で効力に差はない
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自筆証書遺言と公正証書遺言の比較一覧
自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | |
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費用 |
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相続財産の価額によって変動 |
作成方法 |
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手間 |
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証人 | 不要 | 2人以上 |
保管方法 |
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検認の必要性 |
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不要 |
改ざん・紛失の危険性 | ある | ない |
相続争いの抑止 | 遺留分を無視した内容や、不明確な内容の場合、遺族がかえって混乱する恐れがある | 公証人が複雑な内容も整理して遺言を作成するため混乱は少ない |
自筆証書遺言と公正証書遺言の違い
自筆証書遺言とは、遺言者が自ら自筆で書く遺言書です。遺言者自身で手軽に作成できる反面、書き方や訂正方法が民法で定められています。
2019年の民法改正によって、財産目録は自筆でなくても認められるようになったほか、2020年7月からは法務局で遺言書を保管できる自筆証書遺言書保管制度も始まりました。作成の手間を省いたり、改ざんなどを防ぐなどの取り組みが始まっています。
公正証書遺言は、遺言者が遺言の趣旨を口述し、公証人が筆記して作成する遺言書です。公証人のほか証人も2名必要で、作成には費用もかかります。一方、遺言書が無効になる危険性はなく、公証役場で保管するため、改ざんや紛失の恐れもありません。
遺言書作成にかかる費用の違い
自筆証書遺言の作成は、遺言者自身で手書きで作成するため、特別な費用はかかりません。
ただし、法務局(遺言書保管所)で保管する場合は、遺言書の保管の申請に3,900円、また遺言書の閲覧、遺言書情報証明書の交付などにも費用がかかります。
自筆証書遺言保管制度を利用した場合の手数料一覧
申請・請求の種別 | 申請・請求者 | 手数料 |
---|---|---|
遺言書の保管の申請 | 遺言者 | 一件につき、3,900円 |
遺言書の閲覧の請求(モニター) |
|
一回につき、1,400円 |
遺言書の閲覧の請求(原本) |
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一回につき、1,700円 |
遺言書情報証明書の交付請求 | 関係相続人等 | 一通につき、1,400円 |
遺言書保管事実証明書の交付請求 | 関係相続人等 | 一通につき、800円 |
申請書等・撤回書等の閲覧の請求 |
|
一の申請に関する申請書等又は一の撤回に関する撤回書等につき、1,700円 |
公正証書遺言の作成にかかる費用は、公証人が遺言書の作成に着手した時の法律行為の目的である相続財産の価額によって異なります。
公正証書遺言作成の手数料
遺言書の目的の価額 | 手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5,000円 |
100万円超200万円以下 | 7,000円 |
200万円超500万円以下 | 11,000円 |
500万円超1,000万円以下 | 17,000円 |
1,000万円超3,000万円以下 | 23,000円 |
3,000万円超5,000万円以下 | 29,000円 |
5,000万円超1億円以下 | 43,000円 |
1億円超3億円以下 | 43,000円に超過額5,000万円までごとに13,000円加算した額 |
3億円超10億円以下 | 95,000円に超過額5,000万円までごとに11,000円加算した額 |
10億円超 | 249,000円に超過額5,000万円までごとに8,000円加算した額 |
公証人手数料令 別表(第九条、第十七条、第十九条関係)より作成
相続人や受遺者が複数いる場合は、それぞれの相続人、受遺者ごとに相続、または遺贈する財産から目的価額を算出し、それぞれの手数料を合計します。また、病院などで作成する場合は、手数料が50%加算されるほか、公証人の日当、交通費(実費)などがかかります。
なお、公正証書遺言は作成した後、原本を公証役場で保管しますが、保管料はかかりません。ただし、閲覧には費用がかかりますので、閲覧を希望する公証役場にご確認ください。
遺言書の作成方法の違い
自筆証書遺言と公正証書遺言の作成方法には、自筆証書遺言が遺言者本人が自筆で書くのに対し、公正証書遺言は遺言者が遺言内容を口述し、公証人が作成するという違いがあります。
自筆証書遺言は全文、日付、名前を自筆で書き、押印が必要です。ただし、財産目録はパソコンでの作成や通帳のコピーを用いるなど、自筆以外の作成方法も認められています。この場合、遺言者はその目録のページごと(両面にわたる場合は両面)に署名し、印を押します。
公正証書遺言は、遺言者が遺言の趣旨を口述し、公証人が遺言書を作成します。公証人は作成した遺言書を遺言者と証人に読み聞かせるか、または閲覧させます。その後、遺言者と証人は、公証人の筆記が正確なことを確認してから、それぞれ署名し、押印します。
公正証書遺言の作成には、公証人のほか2名以上の証人が必要です。
遺言書の保管方法の違い
自筆証書遺言は、一般的に遺言者本人が自宅などで保管します。銀行の貸金庫などに保管するケースもあります。また、2020年7月からは全国300以上の遺言書保管所(法務局)で、自筆証書遺言を保管するサービスも始まりました。なお、先述の通り、遺言書保管所に保管する場合、3,900円の手数料が発生します。
公正証書遺言は公証役場で原本を保管します。保管された公正証書遺言の有無は、全国の公証役場の「遺言検索システム」によって確認ができます。
ただし、検索が可能なものは、1989年以降に保管した公正証書遺言のみで、それ以前に作成された公正証書遺言は、作成した公証役場に赴く必要があります。
次に、公正証書遺言の正本(原本と同じ効力を持つコピー)、または謄本(原本と同じ効力はないが、内容を確認できる)を取得する場合は、原則、原本を保管する公証役場に行き、正謄本を請求する必要があります。また、2019年4月1日以降は、最寄りの公証役場で手続きすることで、原本を保管する公証役場から郵送で正謄本(遺言公正証書等の正本または謄本)を請求できます。
いずれの場合も、閲覧できる人は限られているほか、定められた書類を用意する必要があります。
改ざんや紛失のリスクの違い
自筆証書遺言は、原則、遺言者自身が保管します。自宅などに保管する場合、ほかの家族に見られたり改ざんされるなどのリスクがあります。
一方、遺言者自身が保管場所を忘れてしまい、遺言書を無くしてしまう。(厳密に隠し過ぎてしまい)どこに保管したかが誰にもわからず見つけてもらえない。さらには、遺言書があったことさえわからないといった事態に陥る可能性もあります。
こうした課題を解決する方法として、2020年から自筆証書遺言を法務局で保管する制度が始まりました。
公正証書遺言は作成後、公証役場に原本は保管されますので、改ざんや紛失の恐れはまずありません。遺言書を作成する際に、公証人に内容を知られてしまうという点はありますが、守秘義務もありますので、公証人から遺言書の内容が漏れるということもまずないと考えてよいでしょう。
検認の必要性
検認とは、遺言書が存在するということやその形式について、裁判所が確認することです。遺言の内容を明確にし、偽造や変造を防止するため、遺言者が保管していた自筆証書遺言や秘密証書遺言などが見つかった場合は、開封する前に家庭裁判所に検認の請求をすることが民法で定められています。
しかし、公正証書遺言の場合は、公証人が作成し、保管も公証役場でおこなっているため検認は不要です。なお、自筆証書遺言も法務局で保管している場合は検認手続きは不要です。
遺言書の効力の違い
自筆証書遺言と公正証書遺言の効力に違いはありません。
例えば、ひとりの遺言者が複数の遺言書を残していた場合も自筆証書遺言と公正証書遺言という遺言書の種類は関係ありません。遺言の内容が以前のものと新しいもので抵触する箇所は新しい遺言書に書かれた内容が効力を持ちます。
反対に、以前の遺言書に書かれており、新しい遺言書に書かれていない内容は、以前の遺言書が有効となります。以前の遺言書を無効にしたい場合は、遺言書を破棄する必要があります。
自筆証書遺言と公正証書遺言の選び方
遺言書を作成する場合、自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらを選ぶべきかという点については、遺言者の考え方にもよるため、一概にどちらが良いとはいえません。
しかし、自筆証書遺言の場合は作成に費用がかからず手軽にできる反面、法的な知識の乏しい遺言者自身が作成する場合、民法で定められた方法と異なっていたなどの理由で法的に無効なものとなってしまう危険性もあります。また内容が曖昧な遺言書では、相続人が混乱してしまう可能性もあります。
従って、特定の相手に財産を残したい場合など、遺言者の死後、相続人同士で相続トラブルが発生する可能性がある場合は、公正証書遺言を作成する。または、自筆証書遺言でも専門家に相談しながら作成することで、遺言者の希望に沿った相続ができるのではないでしょうか。
一方、遺言者の想いを伝えることに重きを置きたいという場合には、自筆証書遺言でも遺志を伝えることは可能です。
まとめ
自筆証書遺言と公正証書遺言では、効力に違いはありません。費用や作成の手間、遺言書によって伝えたい内容に合わせて選ぶ必要があります。
また、近年の法改正によって自筆証書遺言のデメリットも改善されていますが、作成の仕方によっては法的に効力を持たない遺言書になってしまうこともあります。
遺言書の作成をする際は、専門家のアドバイスを受けながら作成するという方法も検討してみてはいかがでしょうか?
「いい相続」では遺言書の作成をはじめ、相続に関するさまざまなご相談を承っています。ご不明な点がありましたら、お気軽にご連絡ください。
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