遺言執行者とは?どんな場合に必要?遺言執行者の選び方と役割、報酬
遺言執行者とは何でしょうか?
この記事では、遺言執行者がどのような場合に必要で、何をするのか、どのように選べばよいのか?報酬はいくら必要なのか?など、遺言執行者に関する知識を網羅的に分かりやすく説明します。
是非、参考にしてください。
目次
遺言とは?
遺言執行者について説明する前に、まずは遺言について説明します。
遺言は一般的には「ゆいごん」と読むことが多いですが、法律用語としての遺言の場合は「いごん」と読みます。
遺言とは、自分の死後に誰へどの財産をあげるかを示したものです。
遺言は、遺言書というかたちで書面にしなければならないことになっています。
なお、遺言書について詳しくは、「遺言書で何ができる?書き方や思いどおりに財産を承継させるポイントを解説!」をご参照ください。
遺言執行者とは?
遺言執行者は、「いごんしっこうしゃ」と読みます。
「遺言執行人」とよばれることもありますが、民法では「遺言執行者」と定められているため、この記事でも「遺言執行者」とよぶことにします。
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人のことです。
遺言が執行される時には、遺言者は亡くなっていますから、遺言の内容を自らの手で実現させることはできません。
そこで、遺言執行者がいると、遺言者の代わりに遺言の内容を実現させることができるのです。
なお、そもそも遺言がない場合は、当然、遺言執行者は不要です。
遺言執行者が必要な場合
それでは、遺言がある場合は、遺言執行者は必ず選任しなければならないかというと、そういうわけではありません。
遺言執行者が必要な場合と、必要でない場合があります。
次の場合は遺言執行者が必要です。
- 遺言で子の認知がされた場合
- 遺言で推定相続人の廃除がされた場合
- 遺言で推定相続人の廃除の取消しがされた場合
- 不動産の遺贈を受けたが、そもそも相続人がいない場合、又は、相続人が所有権移転登記に協力しない場合
これらに該当しない場合は、遺言執行者はいなくても構いません。
以下、それぞれについて説明します。
遺言で子の認知がされた場合
認知とは、婚姻関係にない男女の間に生まれた子について、男性が自分の子であることを認めることです。
認知された子は父の遺産の相続人となることができます。
この認知を遺言で行うこともできますが、認知が遺言で行われた場合は、法律上、遺言執行者が必要で、遺言執行者は認知届を作成し、役所に提出しなければなりません。
遺言で推定相続人の廃除がされた場合
推定相続人とは、被相続人(亡くなって財産を残す人)が亡くなった場合に相続人になると推定される人のことを言います。
誰が相続人となるかは法律で定められていますが、相続人から廃除されることもあるので、相続時に法定相続人が必ず相続人となるとは限りません。
そこで、相続すると推定される人という意味で推定相続人とよぶのです。
推定相続人の廃除は、被相続人の生前に推定相続人が被相続人を虐待したり重大な侮辱を行っていた場合等に、その推定相続人の相続権をはく奪する制度です。
「排除」ではなく「廃除」と書きます。
廃除は遺言で行うこともできます。
遺言に廃除の記述が含まれている場合は、法律上、遺言執行者が必要です。
遺言執行者は家庭裁判所に対して廃除の申立てを行います。
遺言で推定相続人の廃除の取消しがされた場合
廃除は遺言で行う以外に、被相続人が生前に自ら家庭裁判所に申立てることもできます。
しかし、廃除後に、廃除された人が反省して心入れ替えた場合等に、被相続人がやっぱり廃除を取消したいと思うことがあります。
そのような場合に、被相続人は家庭裁判所に廃除の取消しを申立てることができますが、この廃除の取消しを遺言で行うこともできます。
廃除の取消しが遺言に含まれている場合も、法律上、遺言執行者が必要です。
遺言執行者は、家庭裁判所に対して廃除の取消しを申立てます。
不動産の遺贈を受けたが、相続人が所有権移転登記に協力しない場合
遺贈とは遺言によって財産を受け渡すことです。
遺贈によって不動産を取得した場合に不動産の所有権移転登記(名義変更)を行うためには、相続人か遺言執行者のいずれかの協力が必要です。
相続人が所有権移転登記に協力しない場合は、遺言執行者の選任が必要になります。なお、相続人がいない場合も同様に、不動産の所有権移転登記(名義変更)が行えず支障が生じるため、遺言執行者の選任が必要になります。
遺言執行者がいない場合
遺言執行者は、前述の必要な場合以外の場合は、いなくても構いません。
遺言執行者がいない場合は、相続人や受遺者(遺贈によって財産をもらい受ける人)が遺言の内容を実現させるための手続きを行うことになります。
しかし、相続手続きの知識のない相続人や受遺者自らが、遺言の内容を実現する手続きを進めることは煩雑で大変です。
遺言執行者がいない場合は、相続人と受遺者全員の署名、押印と印鑑証明が必要になる手続きも多数あり、手続きの度に相続人全員に連絡して、署名などを集めるのは、なかなか大変です。
その点、遺言執行者は、単独で相続手続きを行うことができるので、スムーズに進めることができます。
また、相続人や受遺者が単独で行うことができる手続きもありますが、一部の相続人や受遺者が勝手な手続きをしてしまうリスクもあります。
ですので、遺言執行者が必須でないケースでも遺言執行者を選定した方が手続きが安全かつスムーズに進むでしょう。
遺言執行者の役割と執行の流れ
遺言執行者は具体的にどのような手続きを行うのでしょうか。
遺言執行者として指定された場合、就任から業務完了までの流れは、概ね次のようなかたちになります。
- 遺言執行者への就任を承諾します
- 遺言執行者に就任したことを相続人と受遺者全員に通知します
- 戸籍等の証明書を収集し、相続人を調査します
- 相続財産を調査します
- 財産目録を作成します
- 預貯金の解約の手続きを行います
- 売却して分配する財産については換価手続きを行います
- 有価証券等の財産の名義変更手続きを行います
- 不動産の所有権移転登記を行います
- 相続人と受遺者全員に完了報告を行います
遺言執行者の権利と義務
このように、遺言執行者は遺言を執行するための広範な権限を持っていますが、遺言執行者は大切な財産を取り扱いますので、遺言者や受遺者、相続人の意に反した勝手な取り扱いをしないように、遺言執行に関して義務を負います。
遺言執行者の権利と義務について説明します。
遺言執行者の権利
遺言執行者は次の2つの権利を持っています。
- 費用償還請求権
- 報酬請求権
以下、それぞれについて説明します。
費用償還請求権
遺言執行者の費用償還請求権とは、遺言執行に要した費用の償還(返してもらうこと)を請求する権利のことです。
遺言執行者が立て替えて支払った費用は、相続人や受遺者に精算を求めることができますし、支払い前であれば、相続人や受遺者に支払うように求めることができます。
ただし、青天井に費用を使えるわけではありません。
償還を請求できる費用は、遺言執行のために必要と認められる範囲に限られます。
また、必要と認められる費用であっても、相続財産の額を超える費用の請求は認められません。
そして、遺言執行者が自分に過失がないのに遺言執行のために損害を被った場合も、その損害の賠償を、相続人や受遺者に請求することができます。
報酬請求権
遺言執行者は、遺言執行という仕事を請け負うわけですから、その仕事に対する報酬を請求することができます。
報酬は、遺言の中で定めることができますが、遺言に定めがない場合は、遺言執行者が家庭裁判所に申立て、報酬額を決めてもらいます。
費用や報酬の支払い方
経費が生じる度に精算しても構いませんが、面倒なので、着手金というかたちであらかじめ想定される経費を渡して遺言執行後に報酬と併せて精算するか、着手金なしで最後に報酬と併せて支払うかたちでも構いません。
遺言執行者が相続人や受遺者に遺産を引渡す際に、費用と報酬を差し引いて引渡すことで清算するやり方が最も手間がないように思われます。
遺言執行者の義務
続いて、遺言執行者の義務について説明します。
遺言執行者は、次の5つの義務を負います。
- 善管注意義務
- 目録作成義務
- 報告義務
- 受取物等の引渡義務
- 補償義務
以下、それぞれについて説明します。
善管注意義務
「善管」とは善良な管理者の略です。
ですので、善管注意義務とは、善良な管理者の注意義務のことです。
遺言執行者は、遺産を管理しますので、管理を怠って、遺産を減らしてしまったりすることがないように気を付けなければなりません。
善良な管理者の注意義務を怠ったがために損害が生じた場合は、遺言執行者は、相続人や受遺者に対して、その損害を賠償する義務を負います。
求められる注意義務の程度は、遺言執行者が専門家かどうかによります。
弁護士などの専門家の場合は、求められる注意義務の程度も高くなりますし、一般人の場合は、求められる注意義務の程度は専門家に比べて低くなります。
目録作成義務
遺言の内容が財産に関する物の場合は、遺言執行者は財産目録を作成して、すべての相続人と包括受遺者に交付しなければなりません。
包括受遺者とは、受遺者の中でも、包括的な遺贈を受けた人、つまり、目的財産を特定せずに、遺産の全部または割合を指定して行う遺贈を受けた人のことです。
例えば、「遺産の3分の1を○○に遺贈する」というような指定の仕方です。
受遺者には、包括受遺者のほかに特定受遺者がありますが、特定受遺者とは目的財産を特定して遺贈を受けた人のことです。
例えば、「○○県○○市○○一丁目一番一号の土地を○○に遺贈する」というような指定の仕方です。
包括受遺者には財産目録を交付しなければなりませんが、特定受遺者には特定の財産の財産目録以外は、財産目録を交付する必要はありません。
財産目録は、相続財産の特定のために作成されますが、特定受遺者は、遺贈を受ける財産が決まっていて、ほかの財産をもらい受けることはないので、ほかにどのような財産があるかを把握する必要はないからです。
ですので、財産目録を交付するのは、相続人と包括受遺者だけでよいのです。
なお、遺留分をもたない相続人にも財産目録は交付しなければなりません(遺留分については「遺留分割合をケース別に説明!代襲相続の孫、養子、兄弟、遺言書あり等」を参照)。
また、財産目録には財産の評価額まで記載する必要はありません。
報告義務
遺言執行者は、相続人や受遺者に求められた場合は、遺言執行の状況を報告しなければなりません。
また、遺言執行が終了した後は、遅滞なくその経過と結果を報告しなければなりません。
受取物等の引渡義務
遺言執行者は、遺言を執行するに当たって受け取った財産を相続人や受遺者に引き渡さなければなりません。
また、相続人や受遺者のために遺言執行者の名で取得した権利も移転しなければなりません。
補償義務
遺言執行者は、相続人や受遺者に引き渡すべき金額を自分のために使った場合は、その日以後の利息を支払わなければなりません。
また、その場合に、損害が生じてしまった場合は、その損害も賠償しなければなりません。
遺言執行者の選任方法
それでは、遺言執行者をどのように選任すればよいでしょうか?
遺言執行者の選任方法には、次の3つがあります。
- 遺言書で遺言執行者を指名する
- 遺言書で遺言執行者の選任者を指名する
- 家庭裁判所に遺言執行者の選任を申立てる
以下、それぞれについて説明します。
遺言書で遺言執行者を指名する
遺言書で遺言執行者を指定する場合は、「この遺言の執行者に次の者を指定する。」というように記述し、続いて、遺言執行者に指定する人の住所と氏名を記述します。
遺言執行者は就任を拒否することもできるので、請け負ってくれるのかどうか、生前に打診したうえで指定した方がよいでしょう。
また、遺言執行者に指定した人が、遺言者よりも先に亡くなってしまったり、気が変わって遺言執行者への就任を拒否する可能性があること見越して、別の遺言執行者を予備的に指定することもできます。
予備的に指定された人が遺言執行者になる場合は、遺言執行者に指定された人が既に亡くなったり、就任を拒否した場合のみです。
なお、予備的ではなく、そもそも複数の遺言執行者を指定することもできます。
複数の遺言執行者を指定する場合は、彼らの職務分担についても遺言書で指定することができます。
不動産に関する遺言執行は司法書士を指定して、それ以外は弁護士を指定するといったかたちが想定できます。
遺言執行者は遺言書で指定された職務分担に従って遺言を執行します。
職務分担が指定されていない場合は、基本的には遺言執行者の過半数で執行することになりますが、各自単独で執行できると遺言書に定めておくこともできます。
なお、保存行為(時効の中断や家屋の修繕等)については、定めがなくても各自単独で執行できます。
また、遺言執行者はやむを得ない事由がなければ、第三者にその任務を行わせることができませんが、遺言に委任してもよい旨の記載があれば、委任しても差し支えありません。
遺言執行者に専門家以外の人を指定する場合は、遺言執行者自身で行うことが難しい手続きもあるので、遺言書に委任してもよい旨を記述しておくとよいでしょう。
遺言書で遺言執行者の選任者を指名する
遺言執行者を遺言書で指定する方法は、遺言執行者が先に亡くなったり、遺言書を作成した時から気が変わって就任を拒否し、遺言執行者がいなくなるリスクがあります。
このようなリスクを避けるために、遺言書では、遺言執行者自体ではなく、遺言執行者の選任者を指定するという方法があります。
家庭裁判所に遺言執行者の選任を申立てる
遺言執行者が指定されていない場合や、辞任、解任、死亡、破産(破産者は遺言執行者になれません)によって、遺言執行者がいなくなった場合は、家庭裁判所に遺言執行者の選任を申立てることができます。
家庭裁判所を介さずに、相続人等が勝手に遺言執行者を選任することはできません。
しかし、申し立ての際に遺言執行者の候補者を家庭裁判所に伝えることができます。
遺言執行者の選任を申立てることができるのは、相続人、受遺者、遺言者の債権者などです。
申立てる先は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
全国の家庭裁判所の所在地と電話番号は、こちらのページから確認できます。
必要な費用は、収入印紙代の800円と、切手代の約2000円(裁判所からの連絡に使用します。金額は裁判所によって多少異なります。)です。
申立に必要な書類は次の通りです。
- 遺言執行者選任申立書
- 遺言者の死亡の記載がある戸籍謄本
- 遺言書のコピー
- 利害関係を証明する資料(相続人の場合は戸籍謄本等)
- 遺言執行者候補者の住民票(候補者を挙げる場合)
遺言執行者選任申立書はこちらからダウンロードできます。
また、記入例はこちらから確認できます。
遺言執行者には誰を選べばよい?
次に、遺言執行者には誰を選べばよいかという点について説明します。
まず、未成年者と破産者は遺言執行者になることはできません。
それ以外の人であれば、基本的には誰でも遺言執行者となることができます。
相続人や受遺者であっても構いません。
しかし、通常、相続人や受遺者は、遺言執行に関する知識がないでしょうから、適切な遺言執行ができない可能性もありますし、どうにかできたとしても大きな負担になるでしょう。
ですので、遺言執行者には、遺言執行の専門家を選任することをお勧めします。
専門家と一口に言っても、弁護士、司法書士、税理士、行政書士、信託銀行等の選択肢がありますから、どの専門家に依頼すべきかという疑問が生じます。
この点、遺言の作成から依頼する場合は、遺言の作成を依頼した人に遺言執行も含めて依頼するとよいでしょう。
遺言作成の依頼は、弁護士が最も適した選択肢といえます。
弁護士であれば、遺言書の形式面だけでなく、紛争予防の観点からどのように遺産分割すべきかという観点も含めて相談し、遺言書に落とし込むことができます。
遺言執行者だけを依頼したい場合、遺産に不動産が含まれている場合は、司法書士への依頼を検討するとよいでしょう。
司法書士は登記の専門家です。
不動産の所有権移転登記(名義変更)手続きは、他の専門家でも、通常、司法書士に依頼するぐらいです。
また、税金対策も相談している税理士がいる場合は、その税理士に遺言執行を依頼してもよいでしょう。
行政書士は、良心的な価格設定をしている人が多いので、費用を抑えたい場合は、選択肢に含まれます。
信託銀行は、遺産相続について相談している銀行がある場合には、遺言執行も併せて依頼してもよいでしょう。
遺言執行者の報酬
遺言執行者の報酬は、遺言書に記載がある場合はその金額に、遺言書に記載がない場合は家庭裁判所に決めてもらうことができます。
あまりに低廉な金額を遺言書に勝手に記載しても辞任されてしまうでしょうから、遺言執行候補者と事前に報酬をすり合わせたうえで、報酬額を決めましょう。
遺言執行に慣れている専門家の場合は、それぞれ独自の料金テーブルを持っています。
一般的には、遺産額の1〜3%ぐらいが相場になっていて、遺産額が少ない場合は最低20万円〜30万円ぐらいが相場になっているようです。
まとめ
以上、遺言執行者について説明しました。
記事を読んでも不明な点は、遺専門家に相談しましょう。
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この記事を書いた人
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