遺言書の検認とは。遺言書を探しだす前に知っておくべき検認の全知識
遺言書が見つかったら検認が必要ということを何となく知っている方は多いでしょう。
しかし、裁判所のウェブサイトを読んでもよく分からないということもあるでしょう。
この記事では、遺言書の検認に関する次のような疑問に対して分かりやすく説明します。
- そもそも遺言書の検認とは?
- どんな場合に検認が必要?
- 検認をしないとどうなる?
- 検認の手続きにはどのくらいの期間がかかる?
- 検認の期限は?
- 検認は誰が申立てる?
- どこに申立てる?
- 申立書の書き方は?
- ほかに必要な書類は?
- 検認手続の流れは?
- 検認手続を代理人に依頼することはできる?
- 検認後の流れは?
- 遺言書の無効を争いたい場合はどうすればよい?
是非参考にしてください。
目次
遺言書の検認とは?
遺言書の検認とは、相続人に対して、遺言の存在とその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など、検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続です(遺言書については「遺言書の正しい書き方とは?思いどおりに財産を承継させるポイントを解説!」をご参照ください。)。
遺言が有効か無効かを判断する手続ではありません(遺言が有効か無効かを判断する手続については後述します。)。公正証書遺言を除く遺言書の保管者(保管者がいない場合にはその遺言書を発見した相続人)は、遺言者の死亡を知った後、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければなりません。
公正証書遺言の場合は、検認は不要です(公正証書遺言について詳しくは「公正証書遺言で最も確実かつ誰でも簡単に遺言をする方法を丁寧に解説」をご参照ください。)。
遺言書の検認をしないとどうなる?
遺言書の検認をしないと、名義変更等の遺言執行を進めることができません。
これは、遺言執行にあたっては、遺言書の検認後に裁判所から発行される遺言書検認済証明書や遺言書検認調書謄本を提出しなければ進められない手続が多いからです。
例えば、遺言者名義の預貯金の解約(名義変更)や相続不動産の登記等、ほとんどの名義変更手続に遺言書検認済証明書か遺言書検認調書謄本が必要となります。
なお、検認を経ないで遺言執行手続を行うと、5万円以下の過料(行政罰)が科される可能性があります。
また、封印のある遺言書は、検認時に、家庭裁判所で相続人等の立会いのもと、開封しなければなりません。
遺言書に封印がある場合は、検認をしないと、内容を確認することもできないのです。
検認前に勝手に開封してしまった場合も、5万円以下の過料(行政罰)が科される可能性があります。
内容が分からなければ、放棄するかどうかを判断したり、遺産分割協議(遺言書の内容によって遺産分割協議が必要とされている場合に限ります。以下、同様です。)を行うこともできません(相続放棄について詳しくは「相続放棄によって借金を相続しないようにする方法と相続放棄の注意点」参照)。
遺言書の検認手続にかかる期間
遺言書の検認は、申立てを行ってから裁判所で検認期日(検認を行う日であり、原則として1回の期日で手続が終了します。)が開かれるまで、1か月〜2か月程度かかります。
なお、後述するとおり、遺言書の検認を申し立てるためには、事前に戸籍謄本等の必要書類を収集する必要があります。相続人が誰であるかによって収集が必要となる戸籍謄本の種類が変わってきますが、沢山の戸籍謄本が必要となる場合などには、その収集だけで1か月以上の期間がかかることもあります。
遺言書の検認の期限
前述の通り、遺言書の保管者や遺言書を発見した人は、遺言者の死亡を知った後(保管者がいない場合には遺言書を発見した後)、「遅滞なく」、その検認を請求しなければなりません。
「遅滞なく」ということしか定められておらず、何日以内といった明確な期限は定められていません。
しかし、前述の通り、検認が済まなければ、遺言執行を進めることはできませんし、遺言書が封印されている場合は、検認によって開封しなければ遺言の内容が分からず、放棄するかどうかの判断や遺産分割協議を行うこともできません。
相続放棄の判断は、原則として、相続開始を知った日から3か月以内に行わなければなりません。
また、相続税がかかる場合は、その申告と納付を、相続開始を知った日の翌日から10か月以内に行わなければなりませんが、相続税の申告・納付の前に、遺産分割協議を終えておくことが望ましいです。
前述の通り、検認手続には1か月〜2か月程度かかり、また、戸籍謄本の収集にも時間がかかる場合があるので、遺言書を発見し次第、速やかに検認の申立てを行った方がよいでしょう。
遺言書の検認の申立手続
遺言書の検認の申立手続について説明します。
申立てを行う人
遺言書の検認の申立てを行うのは、遺言者から遺言書を託されて保管している人がいる場合は、その保管者です。
遺言書の保管者がいない場合は、遺言者自身が保管していた遺言書を発見した相続人がいるはずですので、その発見した相続人が申立てを行います。
申立先
遺言者の最後の住所地の家庭裁判所に申立てます。
管轄裁判所は、裁判所ウェブサイトの「裁判所の管轄区域」のページから調べることができます。
費用
費用は、遺言書1通につき800円です。
収入印紙を貼付して支払います。
また、裁判所から申立人やその他の相続人に連絡するための郵便切手が必要です。
いくら分の切手が必要かについては、申立て前に申立てをする予定の裁判所にご確認ください。
必要書類
申立てに必要な主な書類は、申立書と戸籍謄本です。
申立書
遺言書の検認の申立書には、「家事審判申立書」という書式を利用します。
家事審判申立書に当事者目録という書類を添付して、提出します。
いずれの書類も、全国の家庭裁判所でもらえるほか、裁判所のウェブサイトでもダウンロードすることができます。
以下のリンクからダウンロードし、印刷してご記入ください。
記入については、こちらの記入例を参考にしてください。
なお、家事審判申立書をパソコンで入力したいので、ワードやエクセルの書式はないのかという相談を受けることがありますが、記事執筆日(2018年8月)現在、裁判所が公式に発行している家事審判申立書の書式に、ワードやエクセルのものはありません。
手書きで対応するか、裁判所の書式を利用せずに自身で申立書を作成することになります(申立書は、所定の記載事項を網羅して記入していれば、必ずしも裁判所の書式を使用する必要はありません。)。
戸籍謄本
戸籍謄本は、法定相続情報一覧図の写しを提出すれば、基本的には提出する必要はありません。
法定相続情報一覧図について詳しくは「法定相続情報証明制度を利用すべき場合と利用すべきでない場合の基準」をご参照ください。
法定相続情報一覧図の写しを提出しても、ケースによっては、一部の戸籍謄本の提出を求められることがあるので、その場合は、裁判所の指示に従ってください。
以下、法定相続情報証明制度を利用しない場合に必要となる戸籍謄本について説明します。なお、法定相続情報証明制度を利用するにあたっては、裁判所に提出するのと同様の戸籍謄本を法務局に提出する必要がありますので、同制度を利用する場合であっても、事前に以下の戸籍謄本を取得することが必要となります。
必要な戸籍謄本は、ケースによって異なります。
まず、どのようなケースでも必要となる戸籍謄本は次の3つです。
- 遺言者の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 相続人全員の現在の戸籍謄本(3か月以内のもの)
- 遺言者の子(および、その代襲者)で死亡している人がいる場合,その子(および、その代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
そして、相続人に遺言者の直系尊属(親や祖父母等)が含まれる場合には、次の戸籍謄本が必要です。
- 遺言者の直系尊属(相続人と同じ代及び下の代の直系尊属に限る(例:相続人が祖母の場合、父母と祖父))で死亡している人がいる場合,その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
また、相続人が不存在の場合、遺言者の配偶者のみの場合、または、相続人に遺言者の兄弟姉妹やその代襲者である甥や姪が含まれる場合には、次の戸籍謄本が必要です。
- 遺言者の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 遺言者の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 遺言者の兄弟姉妹に死亡している人がいる場合、その兄弟姉妹の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 代襲者としての甥や姪に死亡している人がいる場合,その甥または姪の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
書類が重複する場合もありますが、その場合は1通のみの提出で構いません。
また、提出した戸籍謄本原本の還付を求める場合は、戸籍謄本のコピーを一緒に提出して、原本の還付を求める旨を裁判所に伝えます。
裁判所によって、原本還付申請書の提出が必要な場合もありますので、裁判所の指示に従ってください。
なお、登記所に対する原本還付申請は割印を押したり、多少複雑な手続が必要なのですが、裁判所に対する原本還付申請においては、そのような手続は不要です。
その他の必要書類
申立人が相続人や受遺者でない場合は、次の書類が必要となる可能性があります。
- 申立人の身分を証明するもの(免許証、保険証、パスポートの写し等)
検認期日通知書
検認の申立てを行ってから、およそ1〜2週間が経った頃に、裁判所から申立人に対して検認期日の日程調整のための連絡があります。
裁判所との日程調整(裁判所から連絡があった日から1か月後くらいを目安に日程調整されるのが一般的です)が済んだら、申立人と相続人に対して、裁判所から検認期日通知書が送付されます。
「遺言書検認申立事件」と記載されていますが、要は、期日の案内状です。
申立人は必ず出席しなければなりませんが、相続人の出席は任意です。
出欠回答書が同封されており、期日にまでに裁判所に届くように回答書を送付します。
担当する裁判所書記官の連絡先も記載されているので、不明な点は問い合わせるとよいでしょう。
検認期日
前述のとおり、申立人は必ず出席しなければなりませんが、相続人の出席は任意です。
出席しなくても不利益はありません。
検認の結果については、後日、検認調書謄本が贈られてくるので、それで知ることができます。
申立人は、遺言書の原本と申立書に押印した印鑑を持参します。
このほか、裁判所に持参すべきものを指示されることがあるので、その場合は、指示に従ってください。
所要時間は、通常10分〜15分ほどで、長くても30分見ていれば十分でしょう。
裁判官が遺言書を開封し、筆跡や印の確認を行います。
途中、裁判官から、筆跡が遺言者のものかどうかや、印が実印かどうか、保管場所や保管方法等について質問を受けますが、分からない場合は分からないと答えて構いません。
検認手続を代理人に依頼するもできる
検認手続を代理人に依頼することもできます。
弁護士や司法書士が検認手続の代理人サービスを提供しています。
検認期日に代理人として同席することができるのは、弁護士だけです。
弁護士に依頼すると、次のような業務を行ってもらうことができます。
- 戸籍謄本等の申立てに必要な書類の収集
- 申立書や当事者目録等の申立書面の作成と提出
- 検認期日への同席
- 検認済証明書の申請
検認手続の弁護士費用の相場は、10万円前後が多いようです。
検認が行われる裁判所が遠方の場合は、別途出張費がプラスされる場合もあります。
司法書士の場合は、検認期日に同席することはできませんが、それ以外の上記の業務を依頼することができます。
費用については、3万円前後で提供している司法書士もいるようです。
検認期日への同席は、それほど必要性の高いものではないでしょうから、費用面を考えれば、司法書士に利があるように思えます。
しかし、遺言書が適法なものかどうか少しでも疑いがあるような場合は、弁護士に検認手続を依頼し、検認期日に同席してもらった方がよいでしょう。
遺言書の検認後の流れ
検認が終わると、その日のうちに、裁判所に遺言書検認済証明書の交付を請求することができます。
検認済証明書は遺言執行の際に必要になります。
検認期日に出席しなかった相続人や受遺者には、検認済通知書が送付されます。
期日に出席しなかった相続人や受遺者も、裁判所に対して検認済証明書の交付を申請することができます。
また、検認が終わると、裁判所は検認調書を作成します。
遺言執行の際に、検認調書謄本が必要になることもありますが、その場合は、裁判所に対して、検認調書謄本の交付を申請してください。
なお、検認済証明書は検認期日に即日発行ができますが、検認調書謄本は交付までに数日かかります。
遺言執行について詳しくは「遺言執行者とは?どんな場合に必要?遺言執行者の選び方と役割、報酬」をご参照ください。
遺言が有効か無効かを確認したい場合は?
遺言が無効であると考えている相続人は、家庭裁判所に家事調停を申し立てて相手方と協議し、調停が調わない場合は、地方裁判所に遺言無効確認訴訟を提起します。
当事者間の意見の対立が激しく、調停で解決できる余地がない場合は、調停を経ずに訴訟を提起できることもあります。
遺言の無効が認められるケースには、遺言書が偽造された場合や、遺言書を遺言者が自署していない場合、遺言者が意思無能力だった場合(認知症の場合等)等があります。
無効確認訴訟を提起する場合の被告は、遺言執行者が指定されている場合は遺言執行者、指定されていない場合は遺言が有効であることを主張する相続人になります。
まとめ
以上、遺言書の検認について説明しました。
検認手続について不明な点は、相続の専門家や管轄の家庭裁判所に問い合わせるとよいでしょう。
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この記事を書いた人
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