遺言書の自筆での書き方と文例。無効にならないためのポイント
自筆で遺言書を作成する場合の書き方や文例、それから無効にならないためのポイントについて、わかりやすく丁寧に説明します。
是非、参考にしてください。
遺言の方式
遺言には数種類の方式がありますが、主に利用されているのは、自筆証書遺言と公正証書遺言です。
自筆証書遺言とは、遺言者の自筆(自書)で書かれていて、公証人が手続きに関与していない遺言のことです。
公正証書遺言とは、公証役場で公証人に遺言書を作成してもらってする遺言のことです。
この記事では、自筆証書遺言について説明しますが、公正証書遺言の方が実はおススメです。
公正証書遺言は、公証人が遺言書を作成してくれるので、形式不備等で無効になることがほとんどなく、また、作成後、遺言書原本を公証役場で保管してくれるので、遺言を紛失したり変造されたりするおそれがないからです。
公正証書遺言は公証人手数料がかかりますが、1万6千円〜(遺言内容の対象財産の価額によって異なります)と、遺言の重要性に鑑みてそれほど高額というわけではありません。
公正証書遺言についても検討してみるとよいでしょう。
公正証書遺言について詳しくは「公正証書遺言で最も確実かつ誰でも簡単に遺言をする方法を丁寧に解説」をご参照ください。
自筆証書遺言の要件
自筆証書遺言が無効にならないための要件について、遺言者についての要件と遺言書についての要件に分けて説明します。
遺言者についての要件
遺言能力を持たない人のした遺言には、遺言の効果が生じません。
つまり、遺言の要件として、遺言者に遺言能力があることが求められます。
遺言能力があると認められるためには、少なくとも次の要件を満たしていなければなりません。
- 遺言時に15歳以上であること
- 遺言時に意思能力があること
以下、それぞれについて説明します。
遺言時に15歳以上であること
遺言をすることができるのは、15歳以上の人です。
15歳未満の人がした遺言は、親権者等の法定代理人の同意の有無にかかわらず無効です。
15歳以上であれば、未成年であっても、法定代理人の同意なく遺言をすることができます。
遺言時に意思能力があること
認知症等で意思能力(遺言能力)がない場合も遺言自体が無効になります。
意思能力とは、自己の行為の結果を判断することのできる能力であり、意思能力があるといえるには、一般的には7〜10歳程度の知力があれば足りるとされますが、あくまで当該行為者について個別具体的に判断されます。
一般的な意思能力の説明としては以上の通りですが、遺言は普段の買い物等よりも複雑な法律行為ですし、前述の通り15歳以上でなければできないので、7歳〜10歳程度の知力では遺言能力がないとされて、遺言が無効となる可能性があります。
なお、自筆証書遺言の場合だけでなく、公正証書遺言の場合でも遺言能力の有無は問題となり、遺言能力を欠いている状態であったことを理由に、遺言が無効となることがあります。
公証人は遺言者の遺言能力に疑いがあるときは、本人の判断能力が十分に備わっているかを確認するために質疑応答などを行ったりしますが、必ずしも遺言書の作成を拒否するわけではありません。
よって、公正証書遺言であっても、後に遺言能力が否定されることがあるのです。
それでは、具体的に、どの程度の認知症から遺言が無効になってしまうのでしょうか。
この点、成年被後見人(精神上の障害により事理を弁識する能力(自己の行為の結果を判断することのできる能力)を欠く常況にあって後見開始の審判を受けた人のこと。詳しくは「成年後見人とは?成年後見制度のデメリット、家族信託という選択肢も」参照)については、遺言をするための具体的な要件が民法に定められています。
第973条 成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならない。
2 遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押さなければならない。ただし、秘密証書による遺言にあっては、その封紙にその旨の記載をし、署名し、印を押さなければならない。
成年被後見人は事理を弁識する能力を欠く常況にあるため、基本的には遺言はできませんが、一時的に事理弁識能力を回復した時は、遺言をすることができます。
ただし、二人以上の医師に、事理を弁識する能力を欠く状態になかったことを証明してもらわなければなりません。
協力してくれる医師が都合よく見つからないこともあって、成年被後年人が遺言をすることは簡単ではありません。
それでは、成年被後見人ではない認知症の人の場合はどうでしょうか。
認知症の人がした遺言が有効かどうかは、主に次の要素から判断されます。
- 遺言時における遺言者の精神上の障害の存否、内容及び程度
- 遺言内容それ自体の複雑性
- 遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯
以下、それぞれについて説明します。
遺言時における遺言者の精神上の障害の存否、内容及び程度
遺言時における遺言者の精神上の障害の存否、内容及び程度は、次の観点から考察されます。
- 精神医学的観点
- 行動観察的観点
以下、それぞれについて説明します。
認知症患者の遺言能力の有無を精神医学的観点から判断する指標として、長谷川式スケールの点数が重視されています。
長谷川式スケールでは、点数に応じて、下表の通り、簡易的な診断をすることができます。
20点以上 | 異常なし |
---|---|
16〜19点 | 認知症の疑いあり |
11〜15点 | 中程度の認知症 |
5〜10点 | やや高度の認知症 |
4点以下 | 高度の認知症 |
大まかな目安として15点以下の場合は遺言能力に疑いが生じ、10点以下の場合は遺言能力がないとする見解もありますが、遺言能力の有無の判断は精神医学的観点のみから行われるものではなく、裁判例でも4点で遺言が有効となったものから、15点で無効となったものまで様々です。
長谷川式スケールによる診断の際は、名古屋市医師会の作成のシートが見やすく説明も丁寧なのでお勧めです。
次に、行動観察的観点についてですが、行動観察観点からは、医療記録、看護記録、介護記録や、それらの作成者等の供述等から知ることができる遺言者の当時の行動等によって遺言能力の有無が判断されます。
遺言内容それ自体の複雑性
障害の程度が大きくても遺言内容が単純であれば遺言能力が認められやすくなりますし、反対に、障害の程度が小さくても遺言内容が複雑であれば遺言能力は認められにくくなります。
遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯
例えば、親族や同居人を差し置いて、親戚関係も、深い付き合いもない人に全財産を遺贈(遺言によって財産を贈ること)しているようなケースでは、このような遺言をする動機や理由がなく、遺言に至る経緯も不自然であるので、遺言能力があったことに疑問が生じるでしょう。
遺言書についての要件
遺言書についての要件には、遺言書全体の成立にかかわる要件と、その箇所の有効性にかかわる要件があるので、それぞれに分けて説明します。
なお、相続法改正によって自筆証書遺言を法務局で保管する制度が新設されますが、この制度を利用する場合は、法務局で保管する際に形式不備の有無が確認されるため、検認の必要がなくなるので、形式不備によって遺言が無効となることは基本的には無くなるはずです(詳しくは「遺言書を法務局で保管する制度について弁護士がわかりやすく説明」参照)。
また、形式不備によって遺言として無効となったとしても、死因贈与が成立していると解釈する余地があります。
死因贈与とは、自分の死後に財産を譲ることを、財産を譲り受ける者との間で生前に約束しておくことをいいます(「死因贈与とは?遺贈との違いは?最適な継承方法を選ぶための全知識」参照)。
遺贈(遺言によって財産を与えること)の場合は受遺者(遺贈を受ける人)の事前の承諾は不要ですが、死因贈与は契約なので、贈与内容について、贈与者の生前に双方の合意があること必要です。
遺言書全体の成立にかかわる要件
遺言書全体の成立にかかわる要件には、次のものがあります。
- 全文自書であること
- 作成した日付があること
- 署名があること
- 押印があること
以下、それぞれについて説明します。
全文自書であること
遺言者が、遺言書の全文、日付および氏名を自書しなければならないとされています。
したがって、誰かに代筆してもらったり、パソコンなどで全文を作成して氏名だけ自書したようなものは無効とされます。
なお、遺言を記載する紙や筆記用具については特に法律による定めはありません。
鉛筆やシャープペンシル等の消えやすいものは、改ざん(書換え)のおそれがあるため避けましょう。
また、ボールペンの場合は水性よりも油性の方が、万が一、水に濡れてしまった場合にも滲みにくいのでお勧めです。
万年筆の場合は、顔料インクが滲みにくいと言われています。
紙についても、極端の話、メモ帳の切れ端やチラシの裏に書いても有効です。
ですが、破損のリスクがあるので、ある程度の強度のある紙に記すべきでしょう。
なお、財産目録を、遺言書に添付することができますが、現状は、財産目録も手書きで作成しなければなりません。
改正法施行後は、財産目録をパソコンで作成することが認められるようになり、また、預貯金の通帳や不動産の登記簿謄本のコピーを添付することもできるようになります(「自筆証書遺言の改正点を弁護士が詳しくわかりやすく説明!」参照)。
財産目録の作成方法については「財産目録の書式をダウンロードしてカンタンに財産目録を作成する方法」をご参照ください。
作成した日付があること
自筆証書遺言には、必ず作成日を記載しなければなりません。
そして、この日付も「自書」しなければならないので、スタンプ等を利用すると無効になってしまいます。
また、「平成〇〇年〇月吉日」というような書き方も、作成日が特定できず、無効となってしまうので、必ず、年月日をきちんと記載することが大切です。
署名があること
自筆証書遺言には、遺言者が、必ず、氏名を自書しなければなりません。
署名をするのは、必ず遺言者1名のみとされており、夫婦2人で、共同で遺言をすることはできないので、注意が必要です。
押印があること
全文、日付、氏名の自書に加えて、押印することが要件とされています。
印は、実印でなくても構いません。
認印でも、拇印や指印でもよいことになっています。
シャチハタですら、実務上、認められる場合がありますが、念のため避けたほうがよいでしょう。
その箇所の有効性にかかわる要件
その箇所の有効性にかかわる要件には次の2つがあります。
- 所定の方式で変更されていること
- 遺言の趣旨が解釈可能であること
以下、それぞれについて説明します。
所定の方式で変更されていること
自筆証書遺言の記載内容を訂正する場合もそのやり方が厳格に決められています。
必ず、訂正した場所に押印をして正しい文字を記載した上で、どこをどのように訂正したのかを余白等に記載してその場所に署名しなければなりません。
具体的には、訂正したい箇所に二重線等を引き、二重線の上に押印し、その横に正しい文字を記載します。
そして、遺言書の末尾などに、「〇行目〇文字削除〇文字追加」と自書で追記して署名をする、ということになります。
このように、訂正方法もかなり厳格なので、万が一、遺言書を訂正したいときは、できる限り初めから書き直した方がよいでしょう(訂正前のものは無用な混乱を避けるため必ず破棄するようにしましょう)。
遺言の趣旨が解釈可能であること
遺言書の内容は、遺言者が亡くなった後に他人が読んで明確に意味がわかるように記載する必要があります。
記載の内容が曖昧であったり、誤記があったりした場合、遺言書を開封したときには、遺言者は既に亡くなっているので、その意味を遺言者本人に確認することはできません。
裁判例においては、「遺言書に表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきであるが,可能な限りこれを有効となるように解釈する」と判断されており、遺言書の内容に曖昧な部分や不明確な部分があっても、それだけで無効になるわけではありませんが、趣旨を解釈することが難しいくらい曖昧な記述については、効力が生じない可能性があります。
また、相続人間に無用なトラブルを生む可能性があるので、曖昧な表記等には気を付ける必要があります。
遺言書の文例
遺言書の内容は、具体的かつ正確に記載する必要があります。
遺言の記載内容が曖昧であったり、不正確であったりするため、遺言の内容が特定できないのでは意味がありません。
不動産なら登記簿謄本に基づいて所在、地番、地目、地積(建物の場合は所在、家屋番号、種類、構造、床面積)を、預貯金の場合は金融機関名、支店名、種類、口座番号、口座名義を正確に記載することが必要です。
遺言書の文例を紹介します。
不動産を相続させる場合
遺言書
遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。
第★条 遺言者は、遺言者の有する下記の不動産を遺言者の妻〇〇○○(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
記
所 在 東京都〇〇区○〇町○丁目 地 番 ○番○ 地 目 宅地 地 積 ○○.○○平方メートル
所 在 東京都〇〇区○〇町○丁目○番○ 家屋番号 ○番○ 種 類 居宅 構 造 木造スレート葺2階建 床 面 積 1階 ○○.○○平方メートル 2階 ○○.○○平方メートル |
車などの動産を相続させる場合
遺言書
遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。
第★条 遺言者は下記の自動車を長男〇〇〇〇(昭和○年○月○日生)に相続させる。
記
登録番号: 品川〇〇と〇〇〇〇 種 別: 普通 用 途: 自家用 車 名: 〇〇〇〇 型 式: 〇〇〇〇 車台番号: 〇〇〇〇〇〇 |
株券などの有価証券を相続させる場合
遺言書
遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。
第★条 遺言者は、〇〇証券○○支店に預託している株式、公社債、投資信託、預け金その他の預託財産の全て及びこれに関する未収配当金その他の一切の権利を、遺言者の妻〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
第★条 遺言者は○○証券○○支店に預託している下記株式を長男〇〇○○(昭和○年○月○日生)と次男〇〇○○(昭和○年○月○日生)に下記のように相続させる。 ?長男○○ □□□□株式会社 5万株 ?次男○○ 株式会社□□□ 3万株 |
相続人以外の者に遺贈する場合
遺言書
遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。
第★条 遺言者は下記の財産を〇〇〇〇(住所:神奈川県〇〇市〇〇町〇丁目〇ー〇、生年月日:昭和○年○月○日生)に遺贈する。
記
〇〇銀行〇〇支店 口座種別 普通預金 口座番号 〇〇〇〇〇〇 口座名義 ○○○○ |
祭祀承継者を指定する場合
遺言書
遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。
第★条 遺言者は遺言者及び祖先の祭祀を主宰すべき者として長男〇〇○○(昭和○○年○月○日生)を指定する。 |
予備的遺言をする
予備的遺言とは、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡した場合に備えた遺言のことです。
特定の相続人に全部または主要な財産を相続させるという内容の遺言をすることは珍しくありません。例えば、自宅土地建物以外にめぼしい財産がない場合に「長男に自宅土地建物を相続させる」といった遺言をする場合などです。
このような場合、もし長男が遺言者より先に死亡したとすると、遺言の効力はどうなるでしょうか。
相続させる者とされた推定相続人が、被相続人(遺言者)の死亡以前に死亡した場合は、特段の事情がない限り、遺言のうち、その推定相続人に相続させるとした部分の効力が生じないことになります。
したがって、推定相続人が死亡した場合に誰に財産を取得させるかについて希望がある場合には、予備的遺言をすることが望ましいと言えます。
予備的遺言をする場合の遺言書の書き方については、以下の文例を参考にしてください。
遺言書
遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。
第★条 遺言者は、遺言者の妻○○〇〇(昭和〇年〇月〇日生)が遺言者の死亡前に又は遺言者と同時に死亡したときは、妻○○○○に相続させるとした第○条に定める財産全部を遺言者の長男〇〇○○(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。 |
遺言執行者を指定する
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人のことです。
次の場合は遺言執行者が必要です。
- 遺言で子の認知がされた場合
- 遺言で推定相続人の廃除がされた場合
- 遺言で推定相続人の廃除の取消しがされた場合
- 不動産の遺贈を受けたが、そもそも相続人がいない場合、又は、相続人が所有権移転登記に協力しない場合
遺言執行者がいない場合は、相続人や受遺者が遺言の内容を実現させるための手続きを行うことになります。
しかし、相続手続きの知識のない相続人や受遺者自らが、遺言の内容を実現する手続きを進めることは煩雑で大変です。
遺言執行者がいない場合は、相続人と受遺者全員の署名、押印と印鑑証明が必要になる手続きも多数あり、手続きの度に相続人全員に連絡して、署名などを集めるのは、なかなか大変です。
その点、遺言執行者は、単独で相続手続きを行うことができるので、スムーズに進めることができます。
また、相続人や受遺者が単独で行うことができる手続きもありますが、一部の相続人や受遺者が勝手な手続きをしてしまうリスクもあります。
ですので、遺言執行者が必須でないケースでも遺言執行者を選定した方が、手続きが安全かつスムーズに進むでしょう。
遺言執行者の指定する場合の遺言書の書き方については、以下の文例を参考にしてください。
遺言書 遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。
第★条 遺言者は本遺言の執行者として下記の者を指定する。
記
(事務所) 東京都〇〇区〇〇▲−▲−▲ (職業) 弁護士 (氏名) 〇〇〇〇 (生年月日)昭和○年〇月〇日 |
なお、遺言執行者について詳しくは「遺言執行者とは?どんな場合に必要?遺言執行者の選び方と役割、報酬」をご参照ください。
付言事項を書く
遺言には、法定遺言事項以外のことを書くこともできます。
これを付言事項と言います。
付言事項は法的な効力はありませんが、遺言者が遺言をした真意を知る材料になりますし、付言事項の内容や遺言者と相続人の人間関係次第では、法的効力がなくても相続人が守ることを期待できる場合もあるので、書く意義は十分にあります。
付言事項には、次のようなものがあります。
- 葬儀の方法等についての指定
- 特定の人の面倒を見るように依頼するもの
- 特定の人への感謝や遺言をする理由を述べるもの
以下、それぞれについて説明します。
葬儀の方法等についての指定
特定の宗教による葬儀の希望、葬儀をしない、あるいはできる限り簡素なものにするなど、葬儀の方法等について指定するものです。
特定の人の面倒を見るように依頼するもの
遺言者が子らに対し、子らが協力して遺言者の妻の面倒を見るようにと依頼したり、子の1人に対して、他の子の面倒を見るようにと依頼したりする場合があります。
特定の人への感謝や遺言をする理由を述べるもの
妻に長年の内助の功を感謝する言葉を述べるなどの場合です。
また、さきほど述べた遺留分との関係で、特定の相続人の貢献が大きいことからその者に全ての財産を譲ることにしたので、他の相続人は遺留分減殺請求をしないようにというように、遺言をした動機など遺言者の心情を述べることもあります。
付言事項の文例
付言事項を書く場合の遺言書の書き方については、以下の文例を参考にしてください。
遺言書 遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。
第★条 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
第★条 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(付言事項) 病気の私のために最後まで尽くしてくれた○○、〇〇には大変感謝しています。 また、長男の嫁である○○さんには、私の介護をお願いさせることになり大変な負担と苦労をおかけしました。 その苦労に報いるためにも、先に記載したとおりに遺産を遺贈したいと思います。 他の兄弟にも言い分はあるかもしれませんが、この遺言内容で兄弟同士で争うことなく、どうか最後まで仲良く暮らしてくれることを切に願います。 私が死んだ後の葬儀は、葬式や告別式などは行わずに直葬で済ませて下さい。 身内だけで葬儀をすることは私の強い希望です。 こうした葬儀の方法で家族皆が揉めることがないようにお願いします。 私は、皆が笑顔で私を送ってくれるのを切に望んでおります。 今まで本当にありがとう。 |
遺贈によって遺留分を侵害してしまうことがある
遺留分とは、一定の相続人(遺留分権利者)について、被相続人(亡くなった人)の財産から法律上取得することが保障されている最低限の取り分のことで、被相続人の生前の贈与又は遺贈(遺言によって財産を取得させること)によっても奪われることのないものです。
遺留分が遺言よりも優先されるとはいえ、遺留分を侵害する遺言が無効になるわけではありません。
遺留分を侵害された人は、贈与や遺贈を受けた人に対し、遺留分侵害額請求することができます。
つまり、遺言自体は有効であって遺言の内容に沿って遺産が承継され、遺留分侵害額請求があれば、侵害額を弁済することになります。
なお、遺留分は権利なので、遺留分侵害額を請求しなければならないわけではありません。
請求するかしないかは、遺留分権利者の自由です。
遺留分について詳しくは「遺留分侵害額請求権とは。遺留分減殺請求権との違いは?」をご参照ください。
相続人が遺留分を巡って争いになることを避けるために、遺言作成時に次のような方法をとることが考えられます。
- 遺留分を侵害しない内容にする
- なぜ偏った内容なのかを付言事項で説明する
- 遺留分の放棄を求める
後の2点について説明します。
付言事項を利用する
遺留分減殺請求がされないように、遺言書の付言事項を記載するという対策があります。
遺言には、法定遺言事項(遺言書に記載することで法的効力が認められる事項)以外のことを書くこともできます。
これを付言事項と言います。
付言事項は法的な効力はありませんが、遺言者が遺言をした真意を知る材料になりますし、付言事項の内容や遺言者と相続人の人間関係次第では、法的効力がなくても相続人が守ることを期待できる場合もあるので、書く意義は十分にあります。
付言事項で、遺言の内容の趣旨を説明することで、遺留分侵害額請求を思い留まってもらえる可能性があります。
多くの割合の財産を特定の人に遺贈や贈与する事情、例えば、障害があって収入を得ることが難しいからとか、献身的に介護してくれたからとか、家業を継ぐからとか、それぞれ事情があると思いますが、その事情を遺留分権利者に伝わるように遺言にしたためるのもよいでしょう。
勿論、遺言だけではなく、遺留分権利者に生前から話をしておくことで、事情を汲んでもらえる可能性が高まるでしょう。
また、遺贈の対象外の遺留分権利者に生前贈与をしている場合は、その旨を付言事項に記しておくとよいでしょう。
そうすることによって、生前贈与分を考慮せずに遺留分侵害額請求がなされてしまうことを予防できるでしょう。
なお、公正証書遺言の場合でも、付言事項は書くことができます。
遺留分の放棄を求める
遺留分の放棄とは、遺留分侵害額請求をする権利を放棄することを言います。
遺留分放棄の効果として、遺留分を放棄した人は、遺留分侵害額請求をする権利を失います。
遺留分の放棄は、家庭裁判所に遺留分放棄の許可を申立て、これが認容されると、行うことができます。
申立てができる時期は、相続開始前(被相続人の生前)に限られます。
相続開始後(被相続人の死後)に遺留分を放棄したい場合の手続きはなく、遺留分減殺請求権を時効成立前までに行使しないことによって権利は消滅しますし(遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは時効によって消滅します。相続開始の時から10年を経過したときも同様です。)、また、遺留分を侵害する内容の遺産分割であっても相続人全員が同意していれば有効です。
家庭裁判所は次のような要素を考慮して、遺留分の放棄を許可するかどうかを判断します。
- 放棄が本人の自由意思によるものであるかどうか
- 放棄の理由に合理性と必要性があるかどうか
- 放棄の代償があるかどうか
遺留分の放棄は、本人の自由意思に基づいて申し立てられなければ許可されません。
無理やり申立てさせたところで、裁判所にそれを見抜かれて、却下されてしまう可能性が高いと思われます。
遺留分を放棄させるには、本人に放棄を心底納得してもらうべきでしょう。
本人に放棄を納得してもらうためには、放棄することの合理性や必要性を説いたうえで、放棄の見返りとして十分な財産を贈与することが必要でしょう。
遺留分の放棄について詳しくは「遺留分を放棄させたい人や放棄を求められた人が知っておくべき全知識」をご参照ください。
遺言書の書式
前述の通り、自筆証書遺言の場合は、パソコンで作成した遺言書は無効です。
ですが、パソコンを使い慣れている人は、パソコンで遺言書に書く内容を作成してから、手書きで清書した方が効率がよいでしょう。
パソコンで作成する下書きの雛形を紹介します。
以下のリンクからダウンロードして利用してください。
なお、この雛形は次のような事例を想定して作成されています。
- 遺言者の法定相続人は、妻乙と長男丙、長女丁の3人である。
- 遺言者は会社(非上場)経営者であるが、高齢のため現在は長男丙が事実上経営を任されている。
- 長女丁には、これまで結婚資金のほか、マイホームの購入資金等の援助をしてきた。
- 遺言者は、経営の安定のため、保有する自分の会社の株式を全て長男丙に譲りたいと考えている。
- それ以外の財産については、長女丁にはこれまで十分な生前贈与をしてきたので、最低限の財産のみを相続させ、それ以外の財産は妻乙の長年の内助の功に報いるため、妻に残したいと考えている。
まとめ
以上、自筆証書遺言の書き方について説明しました。
遺言書作成の際は、相続の専門家に相談のうえ、作成することをお勧めします。
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ご相談される方のお住いの地域、遠く離れたご実家の近くなど、ご希望に応じてお選びください。
この記事を書いた人
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