遺言がないことで相続争いが生じることも!?遺言に関するQ&A【行政書士執筆】
「遺言」という言葉、この言葉を聞いたことがあるという方がほとんどではないでしょうか。しかし、なんとなくのイメージはあっても、「遺言」が何か?と聞かれると正確に答えられる方は少ないと思います。
「遺言」とは、一般的には残された遺族の方に向けたメッセージとしての意味合いで使われているかもしれません。しかし、遺言は、自分が生涯をかけて築き、かつ守ってきた大切な財産を、最も有効・有意義に活用してもらうために行う、遺言者(亡くなった方)の意思表示です。
遺言がないことによって相続財産について争いが生じることがとても多いです。遺言は、そういった争いを未然に防ぐためにも大事です。しかし、遺言だったらなんでも良いというわけではありません。
今回は「遺言」に関する質問に具体的事例を紹介しながら答えていきます。
目次
- 1 遺言のないときは、どうなりますか?
- 2 遺言はどのような手続きでするのでしょうか?
- 3 遺言はいつするべきものでしょうか?
- 4 被相続人の遺言書が作成されているかどうか調べることができますか?
- 5 公正証書を作成する場合の手数料ってどのくらいかかるのでしょうか?
- 6 遺言書に押す印鑑は実印でないといけないのでしょうか?
- 7 遺言書は日本語で作成しないといけないのでしょうか
- 8 ワープロで作成した自筆証書遺言は有効でしょうか?
- 9 自筆証書遺言の日付を間違えてしまっていた場合
- 10 遺言は、訂正や取消し(撤回)が自由にできますか?
- 11 自筆証書遺言を書いたらどのように保管しておくべきでしょうか?
- 12 公正証書遺言はいつまで保管しておいてくれるのでしょうか?
- 13 公正証書遺言をなくしてしまった場合はどうすればよいのでしょうか?
- 14 公正証書遺言と自筆証書遺言のどちらを作成するべきなのでしょうか?
- 15 公正証書遺言と自筆証書どちらの効力が優先されるのでしょうか?
- 16 自筆証書遺言を見つけた場合はどうすればよいのでしょうか?
- 17 遺言で成年後見人の選任をすることができますか?
- 18 遺言の内容と異なる財産分割をすることはできないのでしょうか?
- 19 保険金の受取人の変更ができるか?
- 20 遺言でできることはなんでしょうか?
- 21 まとめ
遺言のないときは、どうなりますか?
遺言がないと相続できないのではないか。そのようなことはありません。確かに遺言があった方が相続の際にスムーズにいくことが多いです。しかし、遺言がなくても問題はありません。遺言のないときは、民法が相続人の相続分を定めていますので、これに従って遺産を分けることになります。この民法で定められている相続分を法定相続分といいます。例えば、「子及び配偶者(妻)が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする」というように定められています。被相続人(父親)の遺産が1000万円だったとします。この場合には、子及び配偶者(妻)が500万円ずつ相続することになります。
遺言はどのような手続きでするのでしょうか?
遺言は、遺言者の真意を確実に実現させる必要があるため、厳格な方式が定められています。その方式に従わない遺言は全て無効です。遺言の方式には①自筆証書遺言➁公正証書③秘密証書遺言という3つの方式が定められています。
①自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言者が、紙に自ら遺言の内容の全文を手書きし、かつ、日付、氏名を書いて、署名の下に押印することにより作成する遺言です。
➁公正証書遺言
公正証書遺言は、遺言者が、公証人の面前で、遺言の内容を口授し、それに基づいて、公証人が遺言者の真意を正確に文章にまとめ、公正証書遺言として作成するものです。
③秘密証書遺言
秘密証書遺言は、遺言者が、遺言の内容を記載した書面に署名押印をしたうえで、これを封じ、遺言書に押印した印章と同じ印章封印した上、公証人及び証人2人の前にその封書を提出し、自己の遺言書である旨及びその筆者の氏名及び住所を申述し、公証人が、その封紙に署名押印することにより作成されるものです。
遺言はいつするべきものでしょうか?
遺言は亡くなる直前などにしておけばいいというイメージをもっている方が多いかもしれません。しかし、それは誤解です。人生、いつ何が起きるかわかりません。遺された遺族が困らないように配慮してあげることが遺言の作成ということなのです。遺言の作成は、満15歳以上になればいつでも可能ですので、判断能力があり、余裕のあるときに作成しておきましょう。
被相続人の遺言書が作成されているかどうか調べることができますか?
平成元年以降に作成された公正証書遺言であれば、日本公証人連合会において、全国的に、公正証書遺言を作成した公証役場、公証人、遺言者名、作成年月日等をデータで管理していますから、すぐに調べることができます。
なお、個人情報保護の観点から誰でも調べることができるわけではありません。相続人等利害関係人のみが公証役場の公証人を通じて照会を依頼することができることになっています。その際に、亡くなった方が死亡したという事実の記載があり、かつ、亡くなった方との利害関係を証明できる記載のある戸籍謄本と、ご自身の身分を証明するもの(運転免許証等顔写真入りの公的機関の発行したもの)が必要になります。
公正証書を作成する場合の手数料ってどのくらいかかるのでしょうか?
目的も価額 | 手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5,000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7,000円 |
200万円を超え500万円以下 | 11,000円 |
500万円を超え1,000万円以下 | 17,000円 |
1,000万円を超え3,000万円以下 | 23,000円 |
3,000万円を超え5,000万円以下 | 29,000円 |
5,000万円を越え1億円以下 | 43,000円 |
1億円を超え3億円以下 | 43,000円に超過額5,000万円までごとに13,000円を加算した額 |
3億円を越え10億円以下 | 95,000円に超過額5,000万円までごとに11,000円を加算した額 |
10億円を超える場合 | 249,000円に超過額5,000万円までごとに8,000円を加算した額 |
遺言書に押す印鑑は実印でないといけないのでしょうか?
遺言書の作成は実印でなくても問題ありません。印鑑でなくても拇指やその他の指で押印したものでも有効とされています。ただし、気をつけなければならないこととして、指印ですと遺言者本人のものであることの立証が困難な場合があります。実印などの方が本人確認をしやすく、遺言執行時も手続きが円滑に進むのでなるべく実印などを使用した方が良いでしょう。
遺言書は日本語で作成しないといけないのでしょうか
遺言書は日本語で作成しないといけないという規定はないので、日本語以外でも作成することが可能です。
ワープロで作成した自筆証書遺言は有効でしょうか?
自筆証書遺言は、遺言者がその全文、日付、及び氏名を自筆し、押印しなければいけません。ただし、相続法の改正により財産目録の部分については自筆でなくてもよくなりました。
自筆証書遺言の日付を間違えてしまっていた場合
遺言の記載内容や、その他の資料から本来の作成日が明らかであればその遺言は有効になる可能性があります。
遺言は、訂正や取消し(撤回)が自由にできますか?
遺言は、被相続人の最終意思を尊重しようとするものですから、訂正や取消し(撤回)はいつでも、また、何回でもできます。一度遺言を作成しても、その後に家族関係や財産の状況が変わることはあります。そのような変化に応じて、いつでも、自由に、何度も訂正や取消し(撤回)ができるようになっています。
ただし、訂正や取消し(撤回)も遺言の方式に従って、適式になされなければなりません。
自筆証書遺言を書いたらどのように保管しておくべきでしょうか?
遺言は相続人以外に財産を譲る旨記載されているなど生前に見つかると困る場合があります。また、死後に見つからなければ遺言の内容を実現してもらえず遺言の意味がありません。
そこで、遺言の保管は、封筒に入れて封印し、内容がわからないようにしておいた方がよいでしょう。一般的な保管方法は、①信頼できる知人等に遺言の保管を頼む➁自宅の金庫に保管するなどです。
保管する際には、封書の裏などわかりやすいところに「遺言書を開封してはいけません。まずは家庭裁判所の検認手続きを受けるように」などと記載しておくとよいでしょう。
公正証書遺言はいつまで保管しておいてくれるのでしょうか?
公正証書遺言の原本の保存期間は、公証人法施行規則27条により、原則として20年ときめられています。
公正証書遺言をなくしてしまった場合はどうすればよいのでしょうか?
公正証書遺言の正・謄本をなくしてしまっても、交渉役場に原本が保存されている限り、正本および謄本交付申請をすれば、改めて正・謄本を交付してもらうことができます。
公正証書遺言と自筆証書遺言のどちらを作成するべきなのでしょうか?
どちらがよいと一律に決めることはできませんが、それぞれの特徴を踏まえて、選択した方がよいでしょう。
自筆証書は、いつどこでも書くことができますし、費用がかからず簡単に作成することができます。その代わり、記載の仕方が不明確だったり、変造・偽造の可能性があります。また、保管にも注意しなければいけません。
一方、公正証書遺言は、作成に公証人が関与するため、記載の仕方が不明確だったり、変造・偽造の可能性がありません。ただし、費用と手間がかかってしまいます。
公正証書遺言と自筆証書どちらの効力が優先されるのでしょうか?
新しい日付の遺言書が優先されます。遺言書を書き直した場合に、以前の作成形式と一緒である必要はないし、作成形式によって法的効力は変わりません。
仮に、4月1日作成の公正証書遺言と5月1日作成の自筆証書遺言があった場合は、5月1日作成の自筆証書遺言の効力が認められます。
自筆証書遺言を見つけた場合はどうすればよいのでしょうか?
自筆証書遺言を見つけたら絶対勝手に開封してはいけません。万が一、勝手に開封してしまった場合は、5万円以下の過料に処せられることがあります。
自筆証書遺言を見つけたら、まずは、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、必要書類を揃えて申立てをしなければなりません。そうすると家庭裁判所で検認といって遺言の内容を明確にして、偽造・変造を防止するための手続きをしてくれます。
遺言で成年後見人の選任をすることができますか?
遺言書で成年後見人を選任することはできません。成年後見人は家庭裁判所への申立てにより裁判所が選任します。
遺言の内容と異なる財産分割をすることはできないのでしょうか?
相続人全員で遺産分割協議をする場合には、遺言の内容と全く違う財産分割をすることができます。ただし、被相続人が遺言で財産分割の禁止をしていた場合には5年間は財産分割をすることができません。
保険金の受取人の変更ができるか?
保険金受取人の意思表示は、保険会社にしなければいけません。したがって、遺言書等で変更を記載しても保険会社に伝えていないと変更の効力は生じません。保険金受取人の変更については、保険契約者(が被保険者の同意を得ることが要件となっています。
遺言でできることはなんでしょうか?
遺言できることが法律で決まっています。次の15個です。
①認知
婚姻関係にない男女から生まれた子(非嫡出子)について、その父親が、自分の子であると認めることです。当然その子と母親は、分娩という事実から親子関係が認められます。認知によって、法律上、子と父親との間に親子関係が生じるので、親子という身分関係に関係する法律関係もまた認知によって生じます。
➁未成年後見人の指定、後見監督人の指定
未成年後見人とは,未成年者(未成年被後見人)の法定代理人であり,未成年者の監護養育,財産管理,契約等の法律行為などを行います。遺言で未成年後見人の指定ができます。
③相続人の廃除
相続人の廃除とは、相続人から虐待をうけたり、著しい非行が相続人にあったときに、家庭裁判所に請求して虐待などした相続人の地位をはく奪することをいいます。相続人廃除の申立てをする主なケースは、①相続人が被相続人を虐待していた場合➁重大な犯罪行為を相続人が行い、有罪判決を受けている③被相続人の財産を相続人が不当に処分した場合④配偶者が愛人と同棲して家庭を省みないなどの不貞行為などがあります。遺言でこのような相続人の廃除ができます。
④相続分の指定、指定の委託
相続財産を誰にどのように相続させるか指定することができます。
⑤特別受益の持ち戻しの免除
特別受益とは、相続人が複数いる場合に、一部の相続人が、被相続人からの遺贈や贈与によって特別に受けた利益のことです。この特別受益を具体的相続分として算定することを特別受益の持ち戻しといいますが、この特別受益の持ち戻しを免除することができます。
⑥遺産分割方法の指定、指定の委託
遺産分割の方法を指定することができます。
⑦遺産分割の禁止
遺産分割の方法を指定することができますが、5年以内の期限付きで禁止することもできます。
⑧相続人間の担保責任の指定
平等に相続の分割が終わった後に、実は相続した建物が壊れていたなどの他の相続人よりも損してしまう相続人がでてしまう場合があります。そのような場合に他の相続人もその損した分を負担しましょうというのが相続人間の担保責任の指定になります。
⑨遺留分の減殺方法の指定
遺留分とは一定範囲の法定相続人に認められる最低限の遺産取得割合です。例えば、遺言の内容によっては、配偶者(妻)だけに全ての財産を相続させてしまうような場合があります。そのような場合に他の法定相続人が遺留分を請求することができるのが遺留分減殺請求です。そしてこの遺留分減殺請求の方法を指定することができます。例えば、「妻の住居を確保しつつ、預金などの現金化しやすい財産から遺留分減殺請求の対象にする」のように減殺請求方法の指定ができます。
⑩遺贈
遺贈とは、遺言によって相続財産の全部または一部を相続人以外に譲り渡すことをいいます。
⑪一般財団法人の設立
一般社団法人の設立をすることができます。
⑫信託の設定
遺言者が、信頼できる個人又は法人(受託者)に対して、自己の指定する財産(信託財産)を自己が定めると特定の目的に従い管理・給付・処分する旨を遺言で設定することができます。
⑬遺言執行者の指定、指定の委託
遺言執行者とは、各相続人の代表として遺言の内容を実現するために必要な手続きをする人のことをいいます。この遺言執行者の指定をすることができます。
⑭祭祀承継者の指定、指定の委託
祭祀承継者とは、系譜、祭具及び墳墓といった祭祀財産や遺骨を管理し、祖先の祭祀を主宰すべき人のことです。この祭祀者を指定することができます。
⑮生命保険金の受取人の変更
生命保険金の受取人の変更ができます。
まとめ
今回は、具体的事例にあてはめて遺言に関する疑問をみていきました。相続財産を誰に相続させるか以外にも遺言によってできること・気をつけなければならないポイントがわかったのではないでしょうか。もちろんこれが遺言に関して全ての回答ではありません。そのぐらい遺言、相続というのは複雑なのです。相続に詳しい行政書士などの専門家にサポートしてもらうほうがよいでしょう。
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この記事を書いた人
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