相続の相談は誰に依頼すれば良い?弁護士・税理士・司法書士・行政書士・銀行をケース別に比較【行政書士監修】
遺産相続には、状況によってさまざまな準備や法的な手続きが必要になります。そのすべてを自分自身の手で行うのは難しく、どうしても専門家に相談するケースも出てくるでしょう。弁護士、税理士、司法書士、行政書士、銀行など、各専門家の得意分野を把握しながら、時期や状況に応じて依頼をすることが非常に重要です。
この記事では、相続の相談相手について弁護士、税理士、司法書士、行政書士、銀行など各専門家の役割について比較しながらご説明します。
弁護士に相続相談をするケース
遺産相続では、ほかの相続人とトラブルになるケースが多くあります。相続問題が調停や審判へと発展した場合には、法律のプロフェッショナルである弁護士に相談することになります。裁判で争うことができるのは、本人もしくは代理人弁護士に限定されています。トラブルが深刻になってから依頼するケースが多く見られますが、弁護士によっては無料相談を行っているため、心配な場合は早めに相談しておくと良いでしょう。
こんな時は弁護士に相談
- 親族間でトラブルが発生した
- 遺産分割協議で揉めている
- 相続放棄を行いたい
- ほかの相続人が相続財産を使い込んでいた
- 遺言書の内容に納得がいかない
- 不動産の相続でトラブルになった
- 自分の相続分に納得できない など
裁判所での手続きが必要
ほかの相続人との遺産分割協議がうまく進まず、家庭裁判所の遺産分割の調停や審判の手続が必要になった場合には、弁護士を代理人として立てる必要があります。
被相続人が亡くなった後、1年以上が経過してからトラブルが発生するケースもありますが、遺産分割協議書などの書面にサインをしていなければ、弁護士に相談することで解決に向かうことも多くあります。
遺留分が侵害されていた
法律で定められている相続人(兄弟・姉妹以外)には、遺言の内容に関わらず一定の割合で相続できる「遺留分」が認められています。
もし遺言書によって法的に定められた割合が大きく損なわれていたり、身内以外の誰かに遺産の一部を相続させる内容になっていた場合には、遺留分侵害額請求(旧・遺留分減殺請求)という訴えを起こすことになります。遺留分侵害額請求(旧・遺留分減殺請求)には法的な知識が必要となるため、一般的には弁護士に依頼することになります。
弁護士費用について
「弁護士費用って高いのでは?」と不安を抱く方も多いようです。相続人同士で争うケースでは、すべての手続きを終えるまでに必要な聞き取り調査や書類作成などに費やす時間も多くなり、ほかの専門家と比べて費用も高くなりがちなのは否めません。事前に大まかな費用を相談しながら、相続問題の経験が豊富で信頼できる弁護士に相談するよう心掛けてください。
税理士に相続相談をするケース
相続税とは、その名の通り「相続にかかる税金」のことです。被相続人の遺産を相続で受け継いだり、遺言によって財産を受け継いだりした場合、その遺産総額が基礎控除額を超えると発生します。相続税申告・納税は「被相続人の死後、10ヵ月以内」に行う必要があるため、ほとんどの場合は「税の専門家」である税理士に相談するのが一般的です。
こんな時は税理士に相談
- 相続税の申告をする必要がある
- 遺産に土地がある
- 莫大な遺産がある など
相続税が発生する条件
実は相続税を申告しなければならない人は、全体の10人に1人程度と言われています。
その理由は国が定めた「基礎控除額」を上回らない限り、相続税を申告する必要がないからです。基本的には、下記の方法で算出した金額よりも相続財産が多い場合に、相続税の申告が必要になります。
上記の計算式から、法定相続人が多い相続ほど基礎控除は多くなることが分かります。つまり、最低でも3,600万円以上の遺産を相続しなければ遺産相続は発生しません。相続税の支払はもちろん、相続税の申告も不必要です。
「相続税の申告」に得意な税理士を選ぶ
「相続税の申告」は、税理士が行う業務の中でも特殊なものと言われています。中には相続税を専門としていない税理士もいるため、国家資格を取得する際に「相続税法」の科目に合格した税理士を選ぶことが重要です。
また、相続に土地が含まれる場合にも正確な査定・手続きを行う必要があるほか、総資産額が1億円を超えるような場合にも、余分な課税を防ぐための手続きが必要となります。そのような場合も、できるだけ信頼できる税理士を探すようにしてください。
司法書士に相続相談をするケース
遺言書の検認や執行をはじめ、遺産分割協議書の作成、相続人の調査など、さまざまな手続きを行えるのが司法書士です。相続人同士でトラブルになり法廷で争うような状況でなければ、遺産相続における、ほぼすべての手続きを行える存在と言えます。被相続人が残した借金を相続しないための「相続放棄」の手続きなども行います。
こんな時は司法書士に相談
- 遺言書作成・検認・執行
- 遺産分割協議書の作成
- 相続人の調査
- 各種財産の承継手続き
- 相続放棄の手続き
- 不動産の名義変更の申請(相続登記)など
司法書士の仕事内容は?
そもそも司法書士は、裁判所や検察庁、法務局に提出する書類を作成する業務を行っています。土地や建物の登記のほか、法務大臣の認定を受けた司法書士は、簡易裁判所が管轄する民事事件の代理人となることも可能です。また、成年後見業務の専門家としても知られ、認知症などの理由で「財産を自分で管理処分するのが困難」な人の支援も行います。
不動産の名義変更(相続登記)
被相続人が亡くなった時に、不動産の名義を相続人に変更する手続きが必要となります。その手続きが「相続登記」です。不動産の所有名義を被相続人から相続人へと移し替えるためには、法務局に相続登記の申請を行う必要があります。
相続登記は義務ではなく罰則などはありません。しかし、そのまま放置をすると、いずれその不動産を売りたいと思った時に売れなかったり、相続登記をしないうちに2次相続や3次相続によって相続関係が複雑になり、遺産分割協議に支障をきたすケースも考えられます。相続人の間で話し合いがまとまった際に、速やかに相続登記を行った方が良いでしょう。
裁判所への書類作成代行
こういった相続登記の際には、専門的な書類作成が必要となります。自分で行うこともできますが、相続人の数や状況によってもやり方が変わるため、それに費やす時間や労力を考えれば、とても現実的とは言えません。遺言書の検認や遺産分割の手続きなど、裁判所に書類を提出する必要がある場合は司法書士に代行を依頼することを検討してみてください。
司法書士に相談・依頼するタイミング
相続登記をはじめ、遺言書作成・検認・執行や遺産分割協議書の作成、相続人の調査、各種財産の承継手続き、相続放棄の手続きなど司法書士はあらゆる相続手続きを行える存在です。
複数の専門家に依頼をするよりも話がまとめやすくなるほか、費用を抑えられる可能性があります。相続人同士で争いが発生していな場合は、まず司法書士に相談してみるのも選択肢の一つです。
また、被相続人のマイナスの財産を放棄できる「相続放棄」には、原則として相続開始から3ヵ月という期限が定められています。故人の葬儀を終えた後は、今後の相続の流れなどについて、なるべく早く相談した方が良いでしょう。
行政書士に相続相談をするケース
弁護士や司法書士とともに、行政書士も遺産相続の手続きを行うことができます。行政書士が遺産相続に関してできることや、ほかの専門家との違いについて簡単におさらいをしておきましょう。
行政書士が遺産相続に関してできること
- 遺言書文案の作成、遺言の執行
- 公正証書遺言の作成手続き
- 相続人の調査
- 相続財産調査、財産目録の作成
- 法定相続情報一覧図・相続情報関係図の作成
- 不在者財産管理人の候補者になること
- 遺産分割協議書の作成
- 各種名義変更(預貯金、有価証券、自動車)など
それぞれの内容について以下で詳しく見ていきましょう。
遺言書文案を作成する
遺言は、大きく3つの方式に分かれます。それが「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の3つです。それぞれ作成すべき人が決まっており、たとえば公正証書遺言は公証人が、自筆証書遺言や秘密証書遺言は遺言者が「遺言書」を作成する必要があります。
行政書士が作成できるのは、弁護士や司法書士と同様、「公正証書遺言」の遺言書文案のみとなります。ただし、弁護士と違い、行政書士に「遺言内容」について相談を行うことはできません。
公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証役場の公証人が関わりながら「遺言」を公正証書の形で残す形式のことです。行政書士は、この「公正証書遺言」の作成手続きを代行することが可能です。遺言公正証書の作成にあたっては、さまざまな書類を集めたり、証人を探したりと、思った以上に手間がかかります。行政書士に依頼することで、それらの手間のほとんどを任せることができます。費用も弁護士や司法書士よりも安くなるケースが多いでしょう。
相続人調査
被相続人にどのような相続人がいるかを調査するのが「相続人調査」です。
以前に結婚していた女性との間に子どもがいた場合や、養子縁組をしていた場合、未婚ながらも認知している子どもがいる場合など、相続人調査を行うことで、思いも寄らなかった相続人が判明することもあります。相続人調査では、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本などを調査する必要があります。行政書士などに相続人調査を依頼する場合には、相続手続きを含めた依頼になることがほとんどです。
法定相続情報一覧図の作成
法務局が戸籍に基づき、被相続人の法定相続人を証明したものが「法定相続情報一覧図」です。不動産の名義変更の手続きの際や、相続税の申告時、銀行や証券会社の相続手続きなどに必要となります。行政書士は、相続手続きの業務の中で、法定相続情報一覧図の作成や法定相続情報証明制度の利用申出手続きを行います。
行政書士は、ほかにもできることはたくさんある
行政書士は、このほかにも相続財産調査や財産目録の作成、遺産分割協議書の作成、預貯金の相続手続きなど、さまざまな手続きに対応できます。
これらの手続きを一括して依頼することで相談の窓口を一本化することができるだけでなく、さまざまな専門家に依頼する場合と比べて費用的にも抑えられる可能性が高くなります。また、弁護士や司法書士と違い、預貯金や有価証券、自動車の相続に対応しているケースが多いのも行政書士の特徴です。
行政書士にできないこと
行政書士にはできない手続きもあります。その代表的なものが、ほかの相続人との交渉や 相続放棄の手続き、遺言書の検認手続き、相続登記、相続税申告などの法律相談を伴う手続きです。裁判所での手続きや、裁判所に提出するための書類作成を行政書士が行うことは原則としてできません。
銀行に相続相談をするケース
近年では、銀行や保険会社も相続相談を業務として取り扱うようになりました。被相続人が残した多額の相続財産を自社運用できるサービスを整えるなど、金融機関としての強みを活かした取り組みを行っています。
ただし、相続登記や税務申告、相続トラブルの解決など法律相談を伴うアドバイスや、法的な書類作成なども行うことができません。とはいえ銀行や保険会社が提携している弁護士や司法書士などを紹介してくれるケースもありますので、相続後の資産運用を考えている人にとっては検討してみる価値があります。
まとめ
一言で「相続の相談」と行っても、専門家によって、できることやできないこと、さまざまなメリットやデメリットがあることがお分かりいただけたのではないでしょうか。 どのような財産が残されるのか、ほかの相続人とどのような話し合いが必要なのか、費用はどれくらい払えるのかなど、自分自身の置かれた状況を判断しながら、少しでも早く専門家に相談することをおすすめします。
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この記事を書いた人
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