相続手続|戸籍と印鑑証明書が必要な理由と集め方【行政書士執筆】
相続手続で必要な戸籍や印鑑証明書はどのように取得し、活用すればいいのでしょうか?
本記事では、相続人の戸籍や印鑑証明書を取得するための方法や注意点、その活用の仕方などについて説明していきます。
相続で必要な書類
前の記事にて、相続手続では戸籍が必要になるとお話しました。相続手続に必要な書類は、実は大きく3つに分けることができます。
- 亡くなった方(=被相続人)が生まれてから亡くなるまでの連続した戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
以上の3点です。それでは、それぞれの取得方法等について詳しく見ていくことにしましょう。
戸籍の役割
相続が発生した場合、被相続人の名義であった財産(銀行預金や不動産など)を相続人の名義に変更する必要が出てきます。その名義変更手続を行うためには、戸籍謄本を各機関に提出することになります。なぜ戸籍謄本を提出しなければならないのでしょう?
大きな理由は2つあります。1つ目は、相続人を確定させるためです。戸籍謄本は、日本国籍の人物の身分関係が明記されています。そのため、親子関係や兄弟姉妹関係が一目瞭然で分かります。また、それら人物の生存・死亡状況が明らかになるため、被相続人の死亡時点における法定相続人が確定できます。
2つ目の理由は、名義変更の当事者となる相続人が誰であるかを明らかにできるからです。
さらに細かく言うと、不動産や自動車などの遺産を誰が相続するかを話し合いで決める遺産分割協議を行うために、相続人の特定が必要となるのです。
遺産分割協議については別記事にて詳しく解説しますので詳細説明は割愛しますが、協議をするためには法定相続人全員が参加する必要があります。参加者を漏れなく把握するために戸籍は必要不可欠なツールとなるのです。
被相続人が生まれてから亡くなるまでの連続した戸籍謄本と、相続人全員の戸籍謄本
「被相続人が生まれてから亡くなるまでの連続した戸籍謄本」と「相続人全員の戸籍謄本」は、被相続人の死亡日以降に取得している必要があることに注意が必要です。被相続人の死亡時点においての相続人の確定に必要な書類なため、死亡前の戸籍謄本では役目を果たすことができないためです。
また、「被相続人の戸籍」は、すべて謄本(=全部事項証明書)を取得しましょう。前述のとおり、戸籍収集は被相続人の法定相続人を確定させる作業ですので、身分関係を確認するだけでは足りません。したがって、一部が記載されている抄本(=一部事項証明書)だけでは不十分となるのです。
それでは、「相続人全員の戸籍」も謄本でなければならないでしょうか?
被相続人の戸籍を収集するのはなぜかを考えてみましょう。それは、その人物の生存・死亡状況を明らかにするためでしたね。だとしたら、戸籍の記載事項は全て記載されている必要性はありませんので、抄本(=一部事項証明書)のみで問題はありません。
遺産分割協議を行った場合に必要な書類
遺産分割協議を行った場合、前述の被相続人および相続人の戸籍謄本等に加えて、遺産分割協議書と相続人の印鑑証明書が必要となります。遺産分割協議書には、全ての法定相続人が署名と押印をします。その際、印鑑は実印でなければなりません。
実印とは、その持ち主が居住している市区町村役場に登録している印鑑のことを指します。そして、その押印が実印でなされていることを証明するために、印鑑証明書を提出します。印鑑証明書の取得方法等については、後ほど詳しく説明します。
遺言書がある場合に必要な書類
遺言書がある場合、これまでとは異なり法定相続人を確定する必要はありません。したがって、必要な書類は遺言書、被相続人の戸籍謄本、受遺者(=遺言によって財産を受け取る人)の現在の戸籍謄本等となります。
相続人全員の印鑑証明書
先述のとおり、印鑑証明書は遺産分割協議を行った際に法定相続人が署名・押印した際に印鑑が実印であることを証明するためにも活用されます。
その他、相続手続においては不動産の相続登記時や金融機関での名義変更時、相続税の申告時などで必要となります。それぞれ、簡単に見ていくことにしましょう。
遺産分割協議時
遺産分割協議が必要となる場合は、相続人が複数人いて遺言書も存在しない時です。その場合、当然印鑑証明書も必要となります。
反対に、相続人が1人しかいない場合や、相続人が複数いるが遺言書が存在する場合、遺産分割協議が不要となりますので、そのための印鑑証明書も不要となります。
相続人が1人の場合、その相続人が全財産を取得することになりますし、遺言書が存在する場合は遺言の内容に沿って財産が分割されるため、遺産分割協議で取り決める必要はないからです。
不動産の相続登記時
相続財産に不動産があった場合、相続登記をして名義変更を行う必要があります。相続登記は法務局に申請して行いますが、その際にも相続人全員の印鑑証明書が必要となります。
金融機関での名義変更時等
被相続人が銀行等に預金口座を有している場合、その口座は金融機関が相続発生を知った時から凍結され、相続人であっても預金を引き出したりすることはできなくなります。口座の凍結を解除して預金を引き出すためには、やはり相続手続が発生するのですが、その際にも相続人の印鑑証明書が必要となります。
必要な印鑑証明書は、相続のパターンによって異なるので注意が必要です。
パターン①遺言が残されている場合、②相続人が1人の場合、③家庭裁判所で調停・裁判をした場合、当該預貯金を相続した人の印鑑証明書が必要です。一方、④遺産分割協議を行った場合、相続人全員の印鑑証明書が必要です。
なお、生命保険会社から死亡保険金を受け取る場合も、受取人の印鑑証明書が必要となります。
相続税の申告時
相続税の申告時には、相続人全員の印鑑証明書の提出が必要となります。遺産分割協議書に押印した印鑑が相続人の実印に間違いないことを証明するために必要なため、申告書に押印する印鑑は認印でも問題ありません。
印鑑証明書の提出要否は遺産分割協議の有無によってきますので、前述の遺産分割協議時の提出要否と同様、相続人が1人の場合や相続人が複数だが遺言書が存在する場合には、遺産分割協議書の作成も不要ですので印鑑証明書の提出も不要となります。
戸籍や印鑑証明書を収集する時のトラブル、アクシデント
複数の戸籍や実印・印鑑証明書を収集する際、必ずしもスムーズに進むとは限りません。その理由と対処法について知っておきましょう。
相続はどうして面倒くさい?
相続をする際に必要な書類は冒頭にお伝えしましたとおり、「被相続人が生まれてから亡くなるまでの連続した戸籍謄本」「相続人全員の戸籍謄本」「相続人全員の印鑑証明書」の3点のみです。
主な手続も、①被相続人名義の財産を解約または名義変更する、②(手続先の)所定用紙または遺産分割協議書に相続人全員が実印を押して提出する2点のみです。それにも関わらず、相続は時間がかかるし揉め事が多くて面倒くさいといったイメージをお持ちの方は多くいらっしゃいます。なぜでしょうか?
それは、手続自体はシンプルだけれども、様々な心境や境遇の違いから全く同じ方法で完結する手続ではないからです。例えば、戸籍がない場合や、相続人に成年被後見人など意思能力が欠ける方や失踪中などで容易に連絡がつかない方がいらっしゃる場合、遺産分割協議書に同意したがらない方がいらっしゃることも想像できます。よくトラブルとして挙げられる事例をもとに、対処法を考えておきましょう。
戸籍がない時はどうする?
紙面で戸籍を管理している市区町村役場では、震災などで焼失してしまったということもあり得ます。また、除籍された戸籍の保存期間は150年と法律で決まっていますので、保存期間を過ぎて処分されてしまっている可能性もあります。その場合、泣き寝入りするしかないのでしょうか?
このような特殊ケースの場合、管轄の市区町村役場にて「戸籍(除籍)謄抄本の交付ができない旨の市町村長の証明書」を出してもらい、それ以外の戸籍謄本から他に相続人がいることが推認されなければ、事務手続を進めることが可能となります。
相続人が行方不明な時はどうする?
路上生活者など生きているが住所が特定できない人物は、実は1%ほどと言われています。裏を返せば99%の行方不明者は見つかるということです。住所の沿革がわかる戸籍の附票という書類を市区町村役場で取り寄せることで、行方不明者の住所を確認することができます。したがって、単に連絡先を知らないというだけであれば、本当の行方不明とは言い切れません。
どうしても行方不明者が見つからない場合は、失踪宣告を家庭裁判所に申し立てる方法があります。失踪宣告とは、生死不明の人物に対して、法律上死亡したものとみなす効果を生じさせる制度です。裁判所が令状で指示をすると、全国の警察官が調査に動いてくれます。
この申し立てにより、かなりの高確率で行方不明者を探し出すことができます。それでも見つからなかった場合は、本当の行方不明者として戸籍上死亡したことにしてもらいます。
相続手続を事例で見てみよう!
これまでの内容を踏まえて、戸籍を活用した相続人の特定方法など事例をもとに考えてみましょう。
相続人が誰だか分からない時はどうする?
お伝えしてきましたとおり、被相続人の預貯金等の金融財産を引き出すためには、相続人全員の実印と印鑑証明書がなければなりません。次のような家族モデルの場合、どのように相続人を特定すればよいか、これまでの内容を振り返りながら考えてみましょう。
今回の相談者は、被相続人Aの長女に当たるCです。Aの家族関係は、妻Bと子2人(相談者Cと長男D)と一般的な4人家族ですが、家族間の付き合いは浅く、各々の現状は詳しく把握できていませんでした。調査したところ、Dは既に他界していましたが、Dに妻や子がいるかはわかっていませんでした。この場合、どうやって法定相続人を特定すればよいでしょうか?
まず初めに、Dの戸籍謄本を取得する必要がありますね。Dの戸籍を調査することで、現在の家族関係を把握することができます。
調査した結果、Dは結婚しており、子すなわち被相続人Aの孫が2人(E、F)存命であることがわかったとします。その場合、Aの法定相続人は、妻B、長女C、孫E、Fの4人であると特定ができました。このように、戸籍を調査することで法定相続人を特定することができます。
面識がない相続人との遺産分割協議がスムーズにまとまるかどうかが肝心となりますので、手続に精通した弁護士や司法書士、行政書士などの専門家に相談することも有効な手段のひとつです。
戸籍が間違っている場合はどうする?
例えば戸籍法が改正された時など、もとの戸籍から現在の戸籍に移行する手続が発生することがあります。その時に、氏名などが誤って戸籍に記載されていたらどうすればよいでしょうか?
役所が正式に発行する証明書類に間違いがあるなんてあり得ないと思われるかもしれませんが、このような人為的なミスは意外と起こり得るのです。
戸籍の誤記載を訂正するためには、市区町村長が管轄法務局等の許可を得て戸籍を訂正してもらうことになります。正しい内容になるまで諸手続が中断される可能性もありますので、戸籍謄本を取得したら必ず誤記載がないかどうか確認するようにしましょう。
予期せぬ相続人が現れたらどうする?
被相続人Aの家族関係は、相談者である子Cとの父子家庭でした。前妻Bとは既に離婚しているため、Cは当然に相続人は自分のみであると思っていました。しかし、戸籍を確認したところ、AにはBとの婚姻前に認知していたDという子がいたことが判明しました。つまり、Aの相続人はCの他にDも含まれることになります。
この場合、いくら疎遠であったとしてもC、Dともに法定相続分の遺産を相続することになります。Cの立場からすると当然不満が残るでしょうから、トラブルになることは明白です。
どうすれば未然に防げたでしょうか?例えば、Aが存命のうちに公正証書遺言を作成し、遺産は全てCに相続すると明示していれば、このような事態にはならなかったでしょう。遺言については、別の記事にて詳しく解説していますので、そちらも一読いただけると参考になるでしょう。
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この記事を書いた人
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