相続に必要な戸籍謄本を自分で簡単に収集するための重要なポイント
身近な人が亡くなって財産を相続することになった場合には手続きが必要です。
相続手続きには、様々な書類が必要になりますが、中でも戸籍謄本の収集が煩雑になるケースがあります。
この記事では、どのような相続手続きに、誰の戸籍謄本がどれだけ必要で、そして、それをどのようにして収集するのかといった点について、わかりやすく丁寧に説明していきます。
まず知っておきたい戸籍謄本の種類
相続手続きに必要な戸籍謄本には、いくつかの種類があります。
相続手続きに必要な戸籍謄本について理解するうえで前提知識として知っておいた方がよいでしょう。
戸籍謄本と戸籍全部事項証明書の違い
まず、現在、「戸籍謄本」と呼ばれている書類は、正確には戸籍謄本ではなく、戸籍全部事項証明書であることが多いです。
以前は、戸籍謄本を交付するときには、戸籍簿という帳簿から戸籍原本を取り出して、それを謄写(コピー)して、戸籍謄本として交付していました。
しかし、現在、ほとんどの自治体で(戸籍は区市町村ごとに管理しています)、戸籍事務がコンピュータ化されており、戸籍原本を謄写して謄本を作成する必要はなくなりました。
2018年時点で、全国1,896の自治体のうち、4の自治体を除く1,892の自治体で、戸籍事務がコンピュータ化されています。
戸籍事務がコンピュータ化されている自治体では、コンピュータから戸籍の内容を出力して、戸籍全部事項証明書として交付します。
両者の間の記載内容にはほとんど違いはありません。
通常、「戸籍謄本」と言ったら、「戸籍謄本」または「戸籍全部事項証明書」のことを指します。
相続手続きで戸籍謄本の提出を求められた際に、戸籍全部事項証明書を提出してもまったく問題ありません。
戸籍謄本と戸籍抄本の違い
「戸籍抄本」という書類もあります。
戸籍謄本とは戸籍原本の内容をそのまま謄写したもののことをいいますが、戸籍抄本とは戸籍原本の一部を抜き書き(抄写)したもののこといいます。
つまり、戸籍の全員が記載されているものが戸籍謄本、一人分だけ記載されているものが戸籍抄本です
また、戸籍事務をコンピュータ化している自治体では、戸籍抄本のことを戸籍個人事項証明書または戸籍一部事項証明書といいます。
除籍謄本とは?
養子縁組、婚姻、離婚、分籍、転籍、失踪宣告、死亡等があると、その人は、そのときに記載されていた戸籍から除籍されます。
戸籍に記載されている人の全員が除籍されると、その戸籍は戸籍簿から消除され、除籍簿に移されます。
このようにして除籍簿に移された戸籍の謄本のことを除籍謄本といいます。
また、除籍簿に移された戸籍の抄本のことは、除籍抄本といいます。
なお、死亡等によって戸籍に記載されている人が除籍されても、その戸籍に除籍されていない人も記載されている場合は、その戸籍は消除されず、依然として戸籍簿にあるので、その戸籍の謄本は除籍謄本ではなく戸籍謄本であり、その戸籍の抄本は除籍抄本ではなく戸籍抄本です。
また、戸籍事務がコンピュータ化された自治体では、除籍謄本は除籍全部事項証明書、除籍抄本は除籍個人事項証明書(除籍一部事項証明書)として交付されます。
相続手続きでは、「亡くなった人の出生から死亡までの戸籍謄本」を求められることがありますが、この戸籍謄本には、除籍謄本も含まれており、多くのケースでは、戸籍謄本だけでなく、除籍謄本も必要になります。
改製原戸籍謄本とは?
省令等によって、戸籍の様式が改製(変更)されることがあります。
これまでに2回、戸籍の改製が行われました。
直近のものは、戸籍事務のコンピュータ化に応じた改製です。
コンピュータ化済みの自治体で戸籍謄本を請求すると、改製された戸籍全部事項証明書が交付されます。
しかし、前述の通り、相続手続きでは、「亡くなった人の出生から死亡までの戸籍謄本」が求められることがあり、その場合は、改製前の戸籍を辿って、戸籍を遡っていく必要があります。
その改製前の戸籍のことを改製原戸籍といい、その謄本のことを改正原戸籍謄本といいます。
「かいせいげんこせき」と読みますが、「げんこせき」と言うと、現在の戸籍という意味の「現戸籍」と混同するので、それを避けるために「はらこせき」と言う人もいます。
戸籍謄本が必要な相続手続き
戸籍謄本が必要となる相続手続きには次のものがあります。
- 相続放棄または限定承認の申述の申立て
- 相続登記(不動産の名義変更)
- 自動車の移転登録
- 預貯金または有価証券の名義変更または払戻し
- 相続税の申告
相続手続きに必要な戸籍謄本
相続手続きに必要となることが多い戸籍謄本は、主に次の2つです(遺言がある場合等のように不要となるケースもあります)。
- 亡くなった人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 相続人全員の現在の戸籍謄本
亡くなった人の出生から死亡までの戸籍謄本については、前述の通り、除籍謄本と改製原戸籍謄本も含めて集めなければなりません。
また、代襲相続がある場合や、亡くなった人の兄弟姉妹が相続人となる場合は、さらに多くの戸籍謄本が必要になります。
代襲相続とは、相続人となるべき者(被代襲者)が、相続開始以前に死亡しているときや相続欠格または廃除により相続権を失ったときにおいて、その被代襲者の直系卑属(代襲者)が被代襲者に代わって、その受けるはずであった相続分を相続することをいいます(「代襲相続とは?範囲は?孫や甥・姪でも相続できる代襲相続の全知識」参照)。
代襲相続がある場合は、被代襲者の出生から死亡まで(死亡していない場合は現在まで)の戸籍謄本と、代襲者全員の現在の戸籍謄本が必要になります。
また、兄弟姉妹が相続人となる場合は、被相続人の父母それぞれの出生から死亡までの戸籍謄本が必要になります。
戸籍謄本の取り方・取り寄せ方
戸籍謄本はどこで取る?コンビニでは取れない?
戸籍謄本は、本籍地の市区町村役場で取得することができます。
本来の市区町村役場でなくとも、総合支所(「支所」、「総合行政センター」という名称の場合もあります)でも取ることができます。
また、郵送で取り寄せることもできますし、コンビニで取ることができる自治体もあります。
自治体がコンビニ交付に対応しているかどうかは、総務省自治行政局住民制度課の「コンビニ交付」のウェブサイトの「利用できる市区町村」のページで確認することができます。
なお、コンビニで取ることができる戸籍謄本は自分が記載されているもののみです。
自分が記載されていない戸籍謄本や、自分が記載されていても除籍謄本や改正原戸籍謄本はコンビニで取ることはできません。
戸籍謄本を取れる人
戸籍謄本を取ることができるのは、原則としては、その戸籍に記載されている人、戸籍に記載されている人の配偶者、戸籍に記載されている人の直系親族(祖父母、父母、子、孫など)です。
配偶者や直系親族が取る場合は、戸籍に記載されている人の続柄が確認できる戸籍謄本等の資料が必要ですが、その自治体にある戸籍で確認できる場合は役場の方で確認してくれるので用意する必要はありません。
また、配偶者や直系親族以外でも、正当な理由がある場合や、戸籍を取ることができる人の委任状がある場合は、戸籍を取ることができます。
例えば、遺産分割協議や相続手続きのために兄弟姉妹の戸籍謄本を取る場合は、正当な理由があると認められるでしょう。
戸籍謄本の請求書(申請書)に請求理由を記載して、それを証明するための資料を添付します。
請求理由は、戸籍謄本を相続手続きに利用する場合は、戸籍謄本の提出先を具体的に記載すると認められやすいでしょう。
そして、添付資料としては、被相続人(亡くなった人)の死亡が確認できる戸籍謄本や、自分が相続人であることが確認できる戸籍謄本があるとよいでしょう。
添付資料は、申請先の自治体にある戸籍で確認できる場合は不要です。
また、行政書士や司法書士等の専門家等に戸籍謄本の収集を依頼する場合は、委任状を書かなければなりません。
専門家に依頼する場合は、専門家の方で委任状の書式を用意していると思いますが、ない場合は自治体のウェブサイトから書式をダウンロードできる場合があるので、探してみるとよいでしょう。
それもない場合は、別の自治体の書式を利用しても大方の場合は問題ないと思いますし、自分で作成しても構いません。
金沢市の書式が記入例も付いていて分かりやすいので、紹介します。こちらを利用しても構わないと思います。
証明書類交付請求委任状の書式と記入例(Wordファイル) |
戸籍謄本を取るための費用
戸籍謄本をとるために必要な手数料は、戸籍謄本が1通450円、除籍謄本と改製原戸籍謄本が1通750円です。
役場の窓口で取る場合は現金払い、郵送で取り寄せる場合は無記入の定額小為替を同封して支払います。
定額小為替は郵便局で購入できます(コンビニでは購入できません)。
戸籍謄本を取るのに必要な書類
戸籍謄本を取るのに必要な書類について、窓口で取る場合と、郵送で取り寄せる場合とに分けて説明します。
なお、取得する戸籍に記載されている人以外の人が請求する場合は、以下で説明する書類以外に、前述の添付資料が必要になることがあります。
窓口で取る場合
- 請求書(役場に用紙があります)
- 印鑑(認印可)
- 本人確認書類(運転免許証、パスポート、マイナンバーカード(個人番号カード)、写真付き住民基本台帳カード、身体障害者手帳、在留カード、特別永住者証明書、運転経歴証明書のうち、いずれか1点)
- 手数料
郵送で取り寄せる場合
戸籍謄本を郵送で取り寄せる場合は、次のものを同封して請求します。
なお、前述の通り、取得する戸籍に記載されている人以外の人が請求する場合は、以下の書類以外に、添付資料が必要になることがあります。
添付した資料の還付を求める場合は、その旨を付箋等に書いておくとよいでしょう。
- 請求書(ウェブサイトで用紙をダウンロードできる自治体が多い。消せるボールペンや鉛筆は使用不可)
- 本人確認および現住所確認書類のコピー(運転免許証、健康保険証、マイナンバーカード(個人番号カード)、写真付き住民基本台帳カード、身体障害者手帳、在留カード等のうちのいずれか1点。現住所の記載が裏面にある場合は裏面のコピーも必要)
- 手数料分の定額小為替
- 返信用封筒(住所氏名を記入し切手を貼付。住所は請求者の現住所でなくてはならない)
返信用封筒は長形3号を折って入れるとよいでしょう。
返信用封筒に貼付する切手は、最低でも140円(100グラム以内)は必要です。
添付資料が多くなりそうなら、205円(150グラム以内)以上にしておきましょう。
切手が不足すると、受取人払いで送ってくれるならよいですが、不足分の追加送付を求められる場合もあるので、多めの金額のものを貼っておきましょう。
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等の取り方
遺産分割協議や相続手続きのときに、相続人を確定させるため、多くのケースでは被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等が必要になります。
取り方としては、まず、死亡の記載がある戸籍謄本または除籍謄本を取ります。
戸籍謄本等には、前の戸籍の情報が記載されているので、それを元に戸籍を一つ一つ遡り、出生の記載がある戸籍に辿り着くまで繰り返します。
被相続人の戸籍謄本は被相続人の本籍地で取れます。
被相続人の本籍地が不明な場合、住所が分かっている場合は、本籍地入りの住民票で本籍地を確認することができます。
住所も不明な場合は、自分の戸籍謄本から被相続人の戸籍が分かります。
自分の現在の戸籍に被相続人について記載がない場合は、自分の過去の戸籍を遡っていくと、必ず被相続人の記載がぶつかります。
まず、自分の戸籍とつながった被相続人の戸籍を取り、そこから前の戸籍と次の戸籍の両方が確認できるので、その戸籍を糸口に、出生から死亡までの戸籍謄本を揃えることができます。
なお、一つの自治体で出生から死亡までの戸籍が揃うとは限りません。
被相続人の本籍地が市区町村をまたいで移動している場合は、移動前の自治体で同じように可能な限り戸籍を遡り、また、別の自治体に移っていたら、同じことを繰り返します(なお、同じ政令指定都市内であれば行政区が異なっていても取得可能)。
なお、戸籍を取る際の請求書には、出生から死亡までの戸籍謄本を取得するという項目がないことがほとんどなので、窓口で取る場合は、職員に、出生から死亡までの戸籍謄本を取りたいことを伝えるとよいでしょう。
そうすると、その自治体で取ることができる限界の戸籍まで遡ったうえで、次はどこの自治体で取ればよいかを教えてくれます。
郵送で取り寄せる場合は、請求書の余白に「被相続人○○○○(昭和○年○月○日生、平成〇年〇月〇日死亡)の相続手続きのため、出生から死亡までの戸籍が必要です。」等と記載(余白がない場合は付箋でも構いません)します。
請求書の用紙に戸籍謄本や除籍謄本についての通数の記入欄があることが多いのですが、そのような欄には何も記入しなくて構いません。
その自治体で戸籍をいくつ遡ることになるかは、戸籍謄本を取ってみなければ分からないので、記入のしようがないためです。
定額小為替についても、送付する時点では、必要な金額が分からないので、多めに入れておきます。
450円を1枚と750円を5枚ほど入れておくとよいのではないかと思います。
余った分は取得した戸籍謄本と一緒に戻してくれます。
足りない場合は、追加で送らなければなりません。
また、古い戸籍は手書きなので、読めないことがあります。
そのような場合は、役場の窓口に戸籍謄本を持参して尋ねると教えてもらえます。
遠方で行くことが難しい場合は、電話でも構いません。
本籍地と戸籍筆頭者と読めない箇所を伝えると調べてももらえることが多いです。
なお、その戸籍の本籍地ではない役場で尋ねても、調べてもらえないでしょう。
また、戦争や災害等で、戸籍が焼失・紛失していることがあります。
その場合は、その戸籍を飛ばして、その前の戸籍を取得します。
焼失・紛失した戸籍の前の戸籍は、身分事項に記載された情報から当たりを付けることができます。
詳しくは、役場か行政書士等の専門家に相談するとよいでしょう。
同じ戸籍謄本を何通も取らなくて済む方法
戸籍謄本等は、相続手続きごとに必要になります。
名義変更等の手続きが必要な財産がいくつもある場合、手続きの数の分の戸籍謄本等を用意しなければならず、取得費用がかさんでしまいます。
この点、所定の方法で戸籍謄本等のコピーを提出することで、原本の還付を受けることができます。
原本を還付してもらいたい書類のコピーに、「原本と相違ない」旨を記載のうえ、申請者の記名押印をします。
この押印に用いる印は、申請書に押印したものと同じものでなければなりません。
戸籍謄本だけでなく、住民票、住民票の除票、遺産分割協議書、印鑑登録証明書等の原本還付にも使えます。
原本還付を受けたい書類が複数枚ある場合は、そのすべてに「原本に相違ない」旨の記載と申請者の記名押印をするか、コピーをステープラー(ホチキス)等で綴じて、一番上の書類にだけ「原本に相違ない」旨の記載と記名押印をして、他の書類には契印をする方法があります。
また、相続関係説明図を添付すると、コピーの提出すら不要です。
相続関係説明図とは、亡くなった人の相続人が誰で、各相続人が亡くなった人とどのような続柄なのかという相続関係を説明するための家系図のような図のことです。
しかし、相続関係説明図によって還付を受けられるのは戸籍謄本の類のみで、住民票の除票や印鑑登録証明書等の原本還付を受けることはできません。
また、法定相続情報一覧図の写しを提出した場合は、原本すら提出不要です(法定相続情報一覧図の作成時に戸籍謄本等が必要なので、戸籍謄本等自体がまったく不要になるわけではありません)。
法定相続情報一覧図とは、法定相続人が誰で各法定相続人は被相続人とそれぞれどのような間柄なのかという情報を一覧化した図のことです。
相続関係説明図と法定相続情報一覧図は、とても似ています。
違いとしては、次のような点が挙げられます。
- 相続関係説明図は公的な制度にのっとったものではありませんが、法定相続情報一覧図は法定相続情報証明制度という公的な制度にのっとって作成されます。
- 相続関係説明図は記載すべき事項が比較的あいまいですが、法定相続情報一覧図は比較的しっかりと決められています。
なお、法定相続情報一覧図の写しを提出した場合に写しの提出が不要になるのは、戸籍謄本の類のみで、住民票の除票や印鑑登録証明書等の提出は必要です。
相続関係説明図の作成方法については「相続関係説明図を13種類のテンプレートから選んで簡単に作成する方法」を、法定相続情報一覧図の作成方法については「法定相続情報証明制度を利用すべき場合と利用すべきでない場合の基準」をそれぞれご参照ください。
まとめ
以上、相続手続きに必要な戸籍謄本について説明しました。
相続手続きについて不明な点は、行政書士や税理士など専門家に相談するとよいでしょう。
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この記事を書いた人
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