公正証書遺言で最も確実かつ誰でも簡単に遺言をする方法を丁寧に解説
高齢化が進む現代社会において、「終活」に力を入れる人が増えてきました。
特に、自分の死亡後に、財産をどのように分配するかということについては、親族が相続で揉めるのを避けたいという想いも相まって、遺言書を残しておこうと考えられる方も多くなってきたようです。
ここでは、遺言書の中でも、特に公正証書遺言について、自筆証書遺言との違いを踏まえながら、そのメリットやデメリット、具体的な作成方法や費用等についてご説明したいと思います。
目次
公正証書遺言とは?
公正証書遺言とは、自分で作成する自筆証書遺言と異なり、公証役場において、公証人に作成してもらう遺言書のことです。
公正証書遺言を作成する場合は、公証役場において、公証人に遺言の内容を口頭で伝え、公証人がそれを文書にします。
公証人とは、法務大臣に任命された公正証書の作成人で、多くの場合、元裁判官や元検察官が公証人を務めています。
公証役場は全国に300ヶ所近くあり、一つの県に複数設置されています。
お近くの公証役場はこちらのページから探すことができます。
公正証書遺言を作成するメリット
遺言書が無効になる可能性が低い
自筆証書遺言は、遺言書に日付がなかったり、自筆で書かずにパソコンで作成したりしただけで無効になってしまう、というように、法律上その様式が厳しく定められているため、ちょっとした誤りで無効になってしまう可能性があります。
これに対し、公正証書遺言は、法律の専門家である公証人が作成するので、作成方法を誤ったために無効になってしまうという可能性は限りなく低いといえます。
また、自筆証書遺言は、遺言者がその遺言を作成した時点で認知症を発症していたような場合、作成時に十分な意思能力がなかったとして後で無効になってしまう可能性がありますが、公正証書遺言の場合は、公証人が遺言者と直接会って話をして、意思能力があるかどうかについても判断をしながら作成するので、後から意思能力がなかったという理由で無効になってしまうこともほとんどないといえます。
遺言書を紛失することがない
公正証書遺言の原本は、作成後、公証役場において保管されます。
そのため自筆証書遺言と異なり、紛失してしまうリスクがありませんし、誰かに無断で書き換えられてしまうというリスクもありません。
遺言書が偽造されることがない
公正証書遺言は、公証役場でしか作成することができず、公証人は、公正証書遺言の作成時に、必ず本人確認を行います。
そのため、自筆証書遺言と異なり、本人の名を語って勝手に遺言書が偽造されてしまうということはあり得ません。
家庭裁判所での検認が必要ない
自筆証書遺言は、遺言者が法務局における保管制度を利用していない限り、遺言者の死亡後、家庭裁判所において遺言書を開封して中身を確認するという「検認」手続きが必要になります。
検認手続きにおいては、家庭裁判所から相続人全員に出頭を求める通知がなされ、相続人、裁判官立ち会いのもとで遺言書が開封されます(必ずしも相続人全員が出頭しなければならないわけではありません)。
しかし、公正証書遺言においては、そもそも検認手続き自体が必要なく、すぐに遺言の内容に従って相続を開始することができます。
文字が書けない場合でも遺言書を作成できる
自筆証書遺言は、必ず「自筆」で作成する必要があり、パソコン等で作成することができません。
そのため、何らかの理由で文字が書けない場合には、自筆証書遺言を作成することができません。
これに対し、公正証書遺言は、口頭で公証人に内容を告げるだけでよいので、文字が書けない場合でも遺言書を作成することができます(言語・聴覚機能に障害がある方の場合でも、手話や筆談によって内容を伝えることが可能です)。
公正証書遺言を作成するデメリット
費用がかかる
公正証書遺言を作成する際のデメリットは、公証人に対する手数料が必要なため、自筆証書遺言よりも費用がかかるという点があげられます(公証人に対する具体的な手数料の額については後述のとおりです)。
証人を用意する必要がある
公正証書遺言を作成するには、遺言者と公証人以外に、証人を2人以上用意しなければなりません。
ただ、推定相続人(遺言者が亡くなったときに相続人になると推定される人)や受遺者(遺言によって財産を取得する予定の者)は証人になることができません。
そのため、推定相続人や受遺者以外の2名の人物に証人になってもらうことを依頼しなければならないのが面倒という点がデメリットとしてあげられます。
公正証書遺言の作成をおすすめするケース
遺言書は、自分が亡くなった後に財産を誰が引き継ぐかということを自分で決めておきたいという方や、自分が亡くなった後に相続人が相続で揉めるのを防ぎたいという想いをお持ちの方に適しているといえます。
特に、法定相続人以外の方へ財産を譲ることを考えておられる場合や、法定相続人に相続させる場合でも、法定相続分とは異なる割合で財産を譲ろうと思われている場合は、相続人間に揉め事が生じやすいことから、より法的効力が安定している公正証書遺言の作成をおすすめします。
また、事業を営んでいる方が、事業用の財産が相続によって分散してしまわないよう、事業の後継者にまとめて財産を相続させたい場合や、財産の一部を遺言によって慈善団体等に寄付したい場合などにも、相続人の一部から反対意見が出る可能性があることから、公正証書遺言によってきちんと意思を表明することが適しているといえるでしょう。
ただ、相続人が一人しかいない等、相続による争いが全く起きる可能性がない場合においては、費用や時間をかけてまで公正証書遺言にする必要はないといえます。
また、証人は遺言の内容を確認しますから、どうしても自分以外の者には遺言の内容を明かしたくないというような場合には、自筆証書遺言か秘密証書遺言の方法によって作成する方がよいでしょう。
公正証書遺言の作成方法
遺言書の内容を決める
公正証書遺言の作成をする際は、まず、誰にどの財産を相続させるかということを決める必要があります。
遺産を相続させる方法には、特定の財産を指定して相続させる方法(特定遺贈といいます)と、遺産のうちの割合(例えば遺産の3分の1)を指定して相続させる方法(包括遺贈)とがあり、それによって遺言書の書き方も変わってきます。
また、誰にどの財産を相続させるかということを決めるには、相続人間の公平や、相続税、遺留分や特別受益等様々な要素を考慮しながら決める必要があると思います。
ただ、どのような遺言の内容にするべきか、という点については公証人には相談できないので、自分自身で事前に検討しておくか、税理士や弁護士といった専門家にあらかじめ相談しておくことが大切です。
証人を2人用意する
公正証書遺言を作成する際には、法定相続人や受遺者以外の第三者2名(未成年者を除く)に証人として立ち会ってもらう必要があることから、あらかじめ証人を選んでおく必要があります。
なお、どうしても適当な証人が見つからない場合は、公証役場の事務員に依頼することも可能です(別途費用が発生します)。
必要書類を収集する
公証役場において、公正証書遺言を作成する際には、次の書類が必要になるので、事前に収集しておきます。
・遺言者本人の本人確認資料(印鑑証明書又は運転免許証、住基カード等顔写真入りの公的機関の発行した証明書のいずれか一つ。)
・遺言者と相続人との続柄がわかる戸籍謄本(財産を相続人以外の人に遺贈する場合は、受遺者の住民票)
・相続財産に不動産がある場合は、その不動産の登記事項証明書、固定資産評価証明書
公証役場で遺言書を作成する
遺言書の内容が決まり、必要書類の準備もできたら、証人と共に公証役場を訪れ、遺言の内容を公証人に伝えて、公正証書遺言を作成してもらいます。
公正証書遺言を作成する際にかかる費用
公正証書遺言を作成する際にかかる費用としては、公証人に支払う手数料と、印鑑証明書や登記簿謄本、戸籍謄本等の必要書類を収集するのにかかる手数料があります。
公正証書遺言を作成する際に公証人に支払う手数料は、遺言書に記載する相続財産(遺産)の額によって決まり、その金額は、交渉人手数料令という法令によって下記のとおり定められています(この手数料は全国の公証役場で共通です)。
相続財産の金額 | 手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5,000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7,000円 |
200万円を超え500万円以下 | 11.000円 |
500万円を超え1000万円以下 | 17,000円 |
1000万円を超え3000万円以下 | 23,000円 |
3000万円を超え5000万円以下 | 29,000円 |
5000万円を超え1億円以下 | 43,000円 |
1億円を超え3億円以下 | 43,000円+5,000万円ごとに13,000円 |
3億円を超え10億円以下 | 95,000円+5,000万円ごとに11,000円 |
10億円を超える場合 | 249,000円+5,000万円ごとに8,000円 |
この場合の、相続財産の金額については、遺産の総額ではなく、相続人毎に計算します。
例えば、1億6,000万円の遺産を、妻に1億円、長男に4,000万円、次男に2,000万円相続させる遺言の場合、
- 妻 :相続財産1億円 → 手数料 43,000円
- 長男:相続財産4,000万円 → 手数料 29,000円
- 次男:相続財産2,000万円 → 手数料 23,000円
合計:95,000円(43,000円+29,000円+23,000円)となります。
なお、以下のような場合は、前記の表から算定した額に加算がなされます。
- 相続財産の総額が1億円以下の場合、11,000円加算
- 遺言書の中で祭祀承継者を指定する場合、11,000円加算
- 前に作成した遺言を撤回する場合、11,000円加算
- 病院や自宅に出張してもらう場合、前記の表から算定した手数料の額にその2分の1を加算し、別途日当(4時間未満:10,000円、4時間以上:20,000円)と交通費の実費を加算
- 公証役場の事務員に証人を依頼した場合、一人あたり10,000円程度(公証役場によって異なります)が別途必要
公正証書遺言を作成する際の注意点
公証人に遺言の内容を相談することはできない
公証人は、法律の専門家ですが、あくまで第三者として公正・中立に、遺言者が話した内容に基づいて遺言書を作成するのが職務です。
そのため、誰にどの財産を相続させるべきか、とか、どのような遺言にすれば相続税が軽減できるか、などといったような遺言の内容について相談をすることはできません。
公証人は、「遺言者にとってベストの遺言書」を提案してくれるわけではなく、あくまで、遺言者の意思を聞いて、その意思に従って、適式な遺言書を作成してくれるにすぎないからです。
遺留分に配慮しなければならない
兄弟姉妹以外の法定相続人は、遺言によっても侵害することのできない最低限の相続分として、遺留分を有しています。
そして、もし、この遺留分を侵害するような遺言書を作成した場合(ある法定相続人に、遺留分に満たない財産しか相続させなかった場合)、遺留分を侵害された法定相続人は、他の相続人に対して遺留分減殺請求権を行使することができます。
前述のとおり、公証人は、遺言者から言われた通りの内容で遺言書を作成しますし、遺留分を侵害する遺言であっても法律上無効になるわけではないので、このような遺留分を侵害するような遺言であっても、公証人はそのまま遺言書を作成します。
そのため、遺言者自身が自分の責任であらかじめ遺留分について考慮した上で、遺言の内容を決めなければなりません。
公正証書遺言を書き直したいときには
遺言書は、一度作成してしまった後でも、いつでも内容を撤回したり変更したりすることができ、2通以上の遺言書がある場合で、その内容が抵触している場合は、後から作成した遺言書が有効となります。
これは公正証書遺言の場合も同様です。
一度公正証書遺言を作成した後に、自筆証書遺言において、これを撤回することも可能です。
公正証書遺言があるかどうか相続人が調べたいときには
被相続人が、相続人に公正証書遺言を作成したことを生前に告げておらず、被相続人の死後、公正証書遺言が存在するかどうかわからない場合、法定相続人は、被相続人の公正証書遺言が存在するかどうかを調査することができます。
具体的には、公証人連合会の遺言検索システムを利用します。
この検索システムは、日本全国の公証役場で作成された(ただし平成元年以降)遺言が対象となるので、必ずしも被相続人が遺言を作成した公証役場でなくても、最寄りの公証役場において調査してもらうことが可能です。
なお、このシステムで公正証書遺言書の存在の有無が確認できるのは、既に亡くなった被相続人のものだけであり、被相続人が生きている間に、相続人が公正証書遺言の有無を調査することはできません。
公正証書遺言について専門家に相談したいときには
公正証書遺言は、公証人が作成してくれることから、自筆証書遺言のように、形式などに悩む必要がありません。
しかし、肝心の遺言書の内容(誰にどの遺産を相続させるのがよいか)については、公証人には相談できないので、事前にきちんと確定させておく必要があります。
そのため、まず、弁護士等の専門家にどのような遺言を残すべきかを相談し、内容をきちんと確定させた上で、公証人に遺言の作成を依頼するという方法をおすすめします。
弁護士であれば、実際に作成する公正証書遺言の下書きを依頼したり、公証役場への同行を依頼することも可能です。
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まとめ
公正証書遺言は、自筆証書遺言に比べて作成に手間や費用がかかるものの、偽造や変造、紛失などといったリスクがなく、法的に非常に安定した効力を有しているので、安心・安全な遺言書といえます。
「終活」において、遺言書の作成を検討されている方は、どのような遺言にすべきかについて、十分専門家と相談された上で、実際に遺言書を作成する際には公証役場を利用して公正証書遺言を作成されることをおすすめします。
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