自筆証書遺言が無効となるケースとケース別の正しい書き方を完全解説
自筆証書遺言とは何でしょうか?
自筆証書遺言のほかには、どのような形式があるのでしょうか?どのような違いがあるのでしょうか?
自筆証書遺言はどのように作成すればよいのでしょうか?
このような疑問を解決するために、この記事では、ケースごとに文例を用意して分かりやすく説明します。
また、遺言書の雛形をダウンロードすることもできます。
是非、参考にしてください。
自筆証書遺言とは?
遺言とは、亡くなった人が、主に自分の財産等について残した意思表示のことです。
例えば、「全財産を妻に相続させる」というような意思表示のことです。
そして、自筆証書遺言とは、自筆(自書)で書かれた遺言のことです。
公正証書遺言との違い
遺言には、自筆証書遺言のほかに、公正証書遺言があります。
なお、遺言には、秘密証書遺言や特別方式遺言もありますが、あまり利用されないものなので、ここでの説明は割愛します(秘密証書遺言について詳しくは「秘密証書遺言を利用すべき場合と雛形から秘密証書遺言を作成する方法」をご参照ください。)。
また、公正証書遺言について詳しくは「公正証書遺言で最も確実かつ誰でも簡単に遺言をする方法を丁寧に解説」をご参照ください。
自筆証書遺言のメリット
自筆証書遺言には、次のようなメリットがあります。
- 手間がかからない
- 費用がかからない
- 一から書き直さなくても内容の訂正ができる
- 遺言をやめたい場合は破棄するだけでよい
以下、それぞれについて説明します。
手間がかからない
公正証書遺言は証人2人と公証役場に行って作成しますが、自筆証書遺言は公証役場に行くことも証人も不要で、自分で作成することができます。
費用がかからない
公正証書遺言は最低でも1万6000円の手数料がかかりますが、自筆証書遺言を自分で作成する場合は費用はかかりません。
専門家に作成を依頼する場合は、報酬が必要です。
報酬額は専門家によって異なりますが、相場としては、定型のものであれば、10万〜20万円くらいです。
初回の相談予約の際に報酬額について確認しておくとよいでしょう。
一から書き直さなくても内容の訂正ができる
内容を訂正したい場合、公正証書遺言の場合は、一から書き直さなければなりませんが、自筆証書遺言の場合は、元の遺言書に訂正を施すことができます。
詳しくは「変更が所定の方式にのっとられていない」の項目で説明します。
遺言をやめたい場合は破棄するだけでよい
遺言を取りやめたい場合、公正証書遺言の場合は基本的に公証役場で手続をしなければなりませんが、自筆証書遺言の場合は破り捨てるだけでよく手軽です。
自筆証書遺言のデメリット
自筆証書遺言には、次のようなデメリットがあります。
- 自書でなければならない
- 形式不備などで無効になるおそれがある
- 紛失や変造のおそれがある
- 検認が必要
以下、それぞれについて説明します。
自書でなければならない
自筆証書遺言は全文自書でなければならないため、高齢の方にとっては負担になる場合があります。
公正証書遺言は、遺言内容を口頭で公証人に伝えたり、事前に弁護士等に相談して作ってもらった遺言書案を公証人に渡したりすることによって、公証人が遺言公正証書を作成してくれます。
形式不備などで無効になるおそれがある
自筆証書遺言は形式不備等で無効になるおそれがあります。
公正証書遺言の場合は、公証人が作成するため、このようなおそれはありません。
もっとも、自筆証書遺言の場合も、専門家に作成を依頼することで、無効となるような事態は避けることができるでしょう。
また、相続法改正後は、法務局での保管制度が施行され、保管時に形式不備のチェックがあるため、このような問題を避けることができます(「相続法改正で何が変わる?いつから適用?ポイントをわかりやすく説明」の「自筆証書遺言を法務局で保管することができるようになる」の項目参照)。
紛失や変造のおそれがある
自筆証書遺言は、自分で保管するために、紛失したり、誰かに見つかって変造されてしまうおそれがあります。
公正証書遺言の場合は、公証役場で保管するため、このようなリスクはありません。
もっとも、改正法施行後は、自筆証書遺言も法務局で保管してもらうことができるため、法務局の保管制度を利用すれば、このような問題を避けることができます。
検認が必要
自筆証書遺言は検認(詳しくは後述)が必要ですが、公正証書遺言の場合は必要ありません。
なお、改正法施行後は、法務局で保管されていた自筆証書遺言については、検認が不要になります。
自筆証書遺言と公正証書遺言の比較
自筆証書遺言と公正証書遺言の違いをまとめると下表のようになります。
自筆証書遺言にするか、公正証書遺言にするか選択する際の参考にしてください。
自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | |
---|---|---|
作成者 | 自分(専門家に作成の補助を依頼することも可能) | 公証人 |
作成方法 | 自筆のみ(専門家に文章を作ってもらっても書くのは自分) | 公証人が作成 |
公証役場に行く必要 | なし | あり |
形式不備で無効になるおそれ | あり | なし |
紛失や変造のおそれ | あり | なし |
証人 | 不要 | 必要 |
秘密性 | 作成したことすら誰にも知られずに可能 | 内容も含めて公証人と証人には知られる |
費用 | 不要 | 1万6000円〜(相続財産額による従量課金) |
保管者 | 自分(誰かに委託してもよい) | 公証役場 |
内容の一部変更 | できる | できない(公証役場で改めて公正証書遺言を作成するか、自筆証書遺言で内容を変更しなければならない) |
検認 | 必要 | 不要 |
法務局における遺言書の保管制度(※) | 利用できる | 利用できない(利用する必要がない) |
※法務局における遺言書の保管制度は、記事執筆日現在(2018年10月)未施行であり、まだ利用することはできません。施行後から利用できます。施行期日は、公布日(2018年7月13日)から2年以内です。
自筆証書遺言作成時の注意点
無効となるおそれがある場合
自筆証書遺言は、次のような場合に無効となるおそれがあります。
- 自書でない箇所がある
- 日付がない
- 署名がない
- 押印がない
- 変更が所定の方式にのっとられていない
- 表現が曖昧
以下、それぞれについて説明します。
自書でない箇所がある
遺言者が、遺言書の全文、日付および氏名を自書しなければならないとされています。
したがって、誰かに代筆してもらったり、パソコンなどで全文を作成して氏名だけ自書したりしたようなものは無効とされます。
なお、遺言を記載する紙や筆記用具については特に法律による定めはありません。
とはいえ、鉛筆やシャープペンシル等の消えやすいものは、改ざん(書換え)のおそれがあるため避けましょう。
また、ボールペンの場合は水性よりも油性の方が、万が一、水に濡れてしまった場合にも滲みにくいのでお勧めです。
万年筆の場合は、顔料インクが滲みにくいと言われています。
紙についても、極端の話、メモ帳の切れ端やチラシの裏に書いても有効です。
ですが、破損のリスクがあるので、ある程度の強度のある紙に記すべきでしょう。
日付がない
自筆証書遺言には、必ず作成日を記載しなければなりません。
そして、この日付も「自書」しなければならないので、スタンプ等を利用すると無効になってしまいます。
また、「平成〇〇年〇月吉日」というような書き方も、作成日が特定できず、無効となってしまうので、必ず、年月日をきちんと記載することが大切です。
署名がない
自筆証書遺言には、遺言者が、必ず、氏名を自書しなければなりません。
署名をするのは、必ず遺言者1名のみとされており、夫婦二人で共同で遺言をするということはできないので、注意が必要です。
押印がない
全文、日付、氏名の自書に加えて、押印することが要件とされています。
印は、実印でなくても構いません。
認印でも、拇印や指印でもよいことになっています。
変更が所定の方式にのっとられていない
自筆証書遺言の記載内容を訂正する場合もそのやり方が厳格に決められています。
必ず、訂正した場所に押印をして正しい文字を記載した上で、どこをどのように訂正したのかを余白等に記載してその場所に署名しなければなりません。
具体的には、訂正したい箇所に二重線等を引き、二重線の上に押印し、その横に正しい文字を記載します。
そして、遺言書の末尾などに、「〇行目〇文字削除〇文字追加」と自書で追記して署名をする、ということになります。
このように、訂正方法もかなり厳格なので、万が一、遺言書を訂正したいときは、できる限り始めから書き直した方がよいでしょう(訂正前のものは無用な混乱を避けるため必ず破棄するようにしましょう)。
表現が曖昧
遺言書の内容は、遺言者が亡くなった後に他人が読んで明確に意味がわかるように記載する必要があります。
記載の内容が曖昧であったり、誤記があったりした場合、遺言書を開封したときには、遺言者は既に亡くなっているので、その意味を遺言者本人に確認することはできません。
裁判例においては、「遺言書に表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきであるが,可能な限りこれを有効となるように解釈する」と判断されており、遺言書の内容に曖昧な部分や不明確な部分があっても、それだけで無効になるわけではありませんが、趣旨を解釈することが難しいくらい曖昧な記述については、効力が生じない可能性があります。
また、相続人間に無用なトラブルを生む可能性があるので、曖昧な表記等には気を付ける必要があります。
遺言としては無効でも死因贈与が成立する余地がある
形式不備によって遺言として無効となったとしても、死因贈与が成立していると解釈する余地があります。
死因贈与とは、自分の死後に財産を譲ることを、財産を譲り受ける者との間で生前に約束しておくことをいいます(「死因贈与とは?遺贈との違いは?最適な継承方法を選ぶための全知識」参照)。
遺贈(遺言によって財産を与えること)の場合は受遺者(遺贈を受ける人)の事前の承諾は不要ですが、死因贈与は契約なので、贈与内容について、贈与者の生前に双方の合意があること必要です。
死因贈与が成立するかどうかはケースによりけりなので、他の相続人に遺言の無効を主張された場合は、相手方の主張の正当性や死因贈与の成立の可否等について早めに弁護士に相談してみると良いでしょう。
受遺者や相続人が揉めたり困ったりしないようにするポイント
上述の要件を満たしていれば、遺言が無効になることはないでしょうが、無効でなければよいというものではありません。
受遺者(遺言により財産をもらい受ける人)や相続人が揉めたり困ったりしないようにするポイントについて説明します。
ポイントとして次のような点が挙げられます。
- 財産目録を作成する
- 具体的かつ正確に書く
- 遺留分に配慮する
- 予備的遺言をする
- 遺言執行者を指定する
- 付言事項を書く
- 契印や封印をする
- 紛失したり持ち去られたりしないように適切に保管する
以下、それぞれについて説明します。
財産目録を作成する
誰にどの財産を渡すか決める前に、まず、自分がどのような財産を持っているのか、洗い出す必要があります。
そのために、財産目録を作成します。
財産目録は、遺言書に添付することができますが、現状は、財産目録も手書きで作成しなければなりません。
改正法施行後は、財産目録をパソコンで作成することが認められるようになり、また、預貯金の通帳や不動産の登記簿謄本のコピーを添付することもできるようになります(「相続法改正で何が変わる?いつから適用?ポイントをわかりやすく説明」の「自筆証書遺言に添付する財産目録が自書でなくてもよくなる」の項目参照)。
財産目録の作成方法については「財産目録の書式をダウンロードしてカンタンに財産目録を作成する方法」をご参照ください。
具体的かつ正確に書く
遺言書の内容は、具体的かつ正確に記載する必要があります。
遺言の記載内容があいまいであったり、不正確であったりするため、遺言の内容が特定できないのでは意味がありません。
不動産なら登記簿謄本に基づいて所在、地番、地目、地積(建物の場合は所在、家屋番号、種類、構造、床面積)を、預貯金の場合は金融機関名、支店名、種類、口座番号、口座名義を正確に記載することが必要です
遺言書の文例を紹介します。
不動産を相続させる場合
遺言書
遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。
第★条 遺言者は、遺言者の有する下記の不動産を遺言者の妻〇〇○○(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
記
所 在 東京都〇〇区○〇町○丁目 地 番 ○番○ 地 目 宅地 地 積 ○○.○○?
所 在 東京都〇〇区○〇町○丁目○番○ 家屋番号 ○番○ 種 類 居宅 構 造 木造スレート葺2階建 床 面 積 1階 ○○.○○? 2階 ○○.○○? |
車などの動産を相続させる場合
遺言書
遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。
第★条 遺言者は下記の自動車を長男〇〇〇〇(昭和○年○月○日生)に相続させる。
記
登録番号: 品川〇〇と〇〇〇〇 種 別: 普通 用 途: 自家用 車 名: 〇〇〇〇 型 式: 〇〇〇〇 車台番号: 〇〇〇〇〇〇 |
株券などの有価証券を相続させる場合
遺言書
遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。
第★条 遺言者は、〇〇証券○○支店に預託している株式、公社債、投資信託、預け金その他の預託財産の全て及びこれに関する未収配当金その他の一切の権利を、遺言者の妻〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
第★条 遺言者は○○証券○○支店に預託している下記株式を長男〇〇○○(昭和○年○月○日生)と次男〇〇○○(昭和○年○月○日生)に下記のように相続させる。 ?長男○○ □□□□株式会社 5万株 ?次男○○ 株式会社□□□ 3万株 |
相続人以外の者に遺贈する場合
遺言書
遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。
第★条 遺言者は下記の財産を〇〇〇〇(住所:神奈川県〇〇市〇〇町〇丁目〇ー〇、生年月日:昭和○年○月○日生)に遺贈する。
記
〇〇銀行〇〇支店 口座種別 普通預金 口座番号 〇〇〇〇〇〇 口座名義 ○○○○ |
祭祀承継者を指定する場合
遺言書
遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。
第★条 遺言者は遺言者及び祖先の祭祀を主宰すべき者として長男〇〇○○(昭和○○年○月○日生)を指定する。 |
遺留分に配慮する
兄弟姉妹以外の相続人には、遺留分があります。
遺留分とは、最低限保障された相続の割合のことで、遺言によっても奪うことができないものです。
遺留分を侵害するような遺言をした場合、遺留分を侵害された相続人は、受遺者・受贈者(贈与によって財産をもらい受ける人)に対して侵害された額を請求することができます。これを遺留分減殺請求といいます。
例えば、相続人が子2人だけである場合に、全ての相続財産を子の1人に相続させるという遺言をした場合、他の子の遺留分を侵害することになります。
このような場合、遺言者の死亡後、相続人間で遺留分についての争いが発生するおそれがあるのです。
そのような争いを避けるための方策として、次のようなものが考えられます。
- 遺留分に相当する財産を相続させる
- なぜそのような遺言をするのかを説明する
他の子に遺留分に相当する額を相続させ、それ以外の財産をもう一人の子に相続させるという遺言をすることで、遺言者の死亡後に争いが生じるのを防ぐことができます。
また、遺留分を侵害した場合でも、侵害された相続人が遺留分減殺請求をしなければ、結果的に遺言どおりの結果を実現することができるため、遺言の中で、遺留分を侵害する遺言をする理由を説明し、遺留分減殺請求をしないように求めるということが考えられます。
遺留分について詳しくは「遺留分とは?遺言や贈与で持っていかれた相続財産を取り戻す方法を説明」をご参照ください。
予備的遺言をする
予備的遺言とは、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡した場合に備えた遺言のことです。
特定の相続人に全部または主要な財産を相続させるという内容の遺言をすることは珍しくありません。例えば、自宅土地建物以外にめぼしい財産がない場合に「長男に自宅土地建物を相続させる」といった遺言をする場合などです。
このような場合、もし長男が遺言者より先に死亡したとすると、遺言の効力はどうなるでしょうか。
相続させる者とされた推定相続人が、被相続人(遺言者)の死亡以前に死亡した場合は、特段の事情がない限り、遺言のうち、その推定相続人に相続させるとした部分の効力が生じないことになります。
したがって、推定相続人が死亡した場合に誰に財産を取得させるかについて希望がある場合には、予備的遺言をすることが望ましいと言えます。
予備的遺言をする場合の遺言書の書き方については、以下の文例を参考にしてください。
遺言書 遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。 第★条 遺言者は、遺言者の妻○○〇〇(昭和〇年〇月〇日生)が遺言者の死亡前に又は遺言者と同時に死亡したときは、妻○○○○に相続させるとした第○条に定める財産全部を遺言者の長男〇〇○○(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。 |
遺言執行者を指定する
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人のことです。
次の場合は遺言執行者が必要です。
- 遺言で子の認知がされた場合
- 遺言で推定相続人の廃除がされた場合
- 遺言で推定相続人の廃除の取消しがされた場合
- 不動産の遺贈を受けたが、そもそも相続人がいない場合、又は、相続人が所有権移転登記に協力しない場合
これらの場合以外は、遺言執行者はいなくても構いません。
遺言執行者がいない場合は、相続人や受遺者が遺言の内容を実現させるための手続きを行うことになります。
しかし、相続手続きの知識のない相続人や受遺者自らが、遺言の内容を実現する手続きを進めることは煩雑で大変です。
遺言執行者がいない場合は、相続人と受遺者全員の署名、押印と印鑑証明が必要になる手続きも多数あり、手続きの度に相続人全員に連絡して、署名などを集めるのは、なかなか大変です。
その点、遺言執行者は、単独で相続手続きを行うことができるので、スムーズに進めることができます。
また、相続人や受遺者が単独で行うことができる手続きもありますが、一部の相続人や受遺者が勝手な手続きをしてしまうリスクもあります。
ですので、遺言執行者が必須でないケースでも遺言執行者を選定した方が手続きが安全かつスムーズに進むでしょう。
遺言執行者の指定する場合の遺言書の書き方については、以下の文例を参考にしてください。
遺言書 遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。 第★条 遺言者は本遺言の執行者として下記の者を指定する。 記 (事務所) 東京都〇〇区〇〇▲−▲−▲ (職業) 弁護士 (氏名) 〇〇〇〇 (生年月日)昭和○年〇月〇日 |
なお、遺言執行者について詳しくは「遺言執行者とは?どんな場合に必要?遺言執行者の選び方と役割、報酬」をご参照ください。
付言事項を書く
遺言には、法定遺言事項以外のことを書くこともできます。
これを付言事項と言います。
付言事項は法的な効力はありませんが、遺言者が遺言をした真意を知る材料になりますし、付言事項の内容や遺言者と相続人の人間関係次第では、法的効力がなくても相続人が守ることを期待できる場合もあるので、書く意義は十分にあります。
付言事項には、次のようなものがあります。
- 葬儀の方法等についての指定
- 特定の人の面倒を見るように依頼するもの
- 特定の人への感謝や遺言をする理由を述べるもの
以下、それぞれについて説明します。
葬儀の方法等についての指定
特定の宗教による葬儀の希望、葬儀をしないあるいはできる限り簡素なものにするなど、葬儀の方法等について指定するものです。
特定の人の面倒を見るように依頼するもの
遺言者が子らに対し、子らが協力して遺言者の妻の面倒を見るようにと依頼したり、子の1人に対して、他の子の面倒を見るようにと依頼したりする場合があります。
特定の人への感謝や遺言をする理由を述べるもの
妻に長年の内助の功を感謝する言葉を述べるなどの場合です。
また、さきほど述べた遺留分との関係で、特定の相続人の貢献が大きいことからその者に全ての財産を譲ることにしたので、他の相続人は遺留分減殺請求をしないようにというように、遺言をした動機など遺言者の心情を述べることもあります。
付言事項の文例
付言事項を書く場合の遺言書の書き方については、以下の文例を参考にしてください。
遺言書 遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。 第★条 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 第★条 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (付言事項) 病気の私のために最後まで尽くしてくれた○○、〇〇には大変感謝しています。 また、長男の嫁である○○さんには、私の介護をお願いさせることになり大変な負担と苦労をおかけしました。 その苦労に報いるためにも、先に記載したとおりに遺産を遺贈したいと思います。 他の兄弟にも言い分はあるかもしれませんが、この遺言内容で兄弟同士で争うことなく、どうか最後まで仲良く暮らしてくれることを切に願います。 私が死んだ後の葬儀は、葬式や告別式などは行わずに直葬で済ませて下さい。 身内だけで葬儀をすることは私の強い希望です。 こうした葬儀の方法で家族皆が揉めることがないようにお願いします。 私は、皆が笑顔で私を送ってくれるのを切に望んでおります。 今まで本当にありがとう。 |
契印や封印をする
遺言書が2枚以上にわたった場合には、ホッチキス等で綴り、契印をするようにしましょう。
契印とは、二枚以上の書類がある場合に、それらが一式の書類で、順番に違いないこと(抜き取られていたり、足されたり、順番が入れ替わったりしていないこと)を証明するために、複数のページ(例えば1枚目と2枚目)に渡って印影が残るように押す印鑑のことです。
契印は遺言書が有効となるための必須の条件ではありませんが、偽造や変造を防ぐためには大切なことです。
同様に、遺言書を作成したら、封筒などに入れて封印をして保管するようにしましょう。
これも、封印しなかったからといって無効になるわけではないのですが、偽造や変造を防止するためには重要なポイントです(仮に偽造・変造されなかった場合でも、偽造や変造を疑われないためという意味において、契印や封印をしておくことが大切です)。
紛失したり持ち去られたりしないように適切に保管する
自筆証書遺言の場合は、自分で(または、誰かに委託しして)遺言書を保管しなければなりません。
遺言者の自宅に保管する場合は、ほかの人に簡単に見つかる場所に置いておくと、相続開始前に見つかって開封されたり、隠されたりするおそれがあります。
また、反対に見つかりにくいところに隠していた場合は、相続が開始しても遺言書が発見されず、遺言書がないものとして、法定相続分で相続されてしまう可能性があります。
そうならないように、遺言執行者を指定して、遺言執行者に遺言書を預けておくとよいでしょう。
遺言執行者は身内でも構いませんが、弁護士等の専門家や信託銀行に依頼することもできます。
なお、2018年7月13日、法務局における遺言書の保管等に関する法律(遺言書保管法)が公布され、公布日から2年以内(遅くとも2020年7月12日まで)に、施行されます。
遺言書保管法が施行されると、自筆証書遺言は、法務局における遺言書の保管制度を利用することができます。
法務局における遺言書の保管制度を利用すると、自分で遺言書を保管しなくてもよいので、遺言書の破損、滅失、紛失、隠匿といったリスクがありません。
自筆証書遺言の雛形
前述の通り、自筆証書遺言の場合は、パソコンで作成した遺言書は無効です。
ですが、パソコンを使い慣れている人は、パソコンで遺言書に書く内容を作成してから、手書きで清書した方が効率がよいでしょう。
パソコンで作成する下書きの雛形を紹介します。
以下のリンクからダウンロードして利用してください。
なお、この雛形は次のような事例を想定して作成されています。
- 遺言者の法定相続人は、妻乙と長男丙、長女丁の3人である。
- 遺言者は会社(非上場)経営者であるが、高齢のため現在は長男丙が事実上経営を任されている。
- 長女丁には、これまで結婚資金のほか、マイホームの購入資金等の援助をしてきた。
- 遺言者は、経営の安定のため、保有する自分の会社の株式を全て長男丙に譲りたいと考えている。
- それ以外の財産については、長女丁にはこれまで十分な生前贈与をしてきたので、最低限の財産のみを相続させ、それ以外は妻乙の長年の内助の功に報いるため、妻に残したいと考えている。
自筆証書遺言の執行には検認が必要
自筆証書遺言では、偽造や変造を防止するため、相続開始後、遺言書が見つかったら、開封せずに、遺言書の検認を行わなければなりません。
検認前に開封してしまった場合は、開封者が5万円以下の過料(行政罰)が科される可能性がありますが、遺言自体が無効となるわけではありません。
遺言書の検認については「遺言書の検認とは?遺言書が見つかったら知っておくべき検認の全知識」をご参照ください。
なお、前述の法務局における遺言書の保管制度を利用する場合は、検認は不要です。
まとめ
以上、自筆証書遺言について説明しました。
自筆証書遺言を作成する際は、不備で無効になってしまうことを避けるために、弁護士等の専門家に相談するようにしましょう。
弁護士のほか、司法書士や行政書士にも、遺言書作成の補助業務をしている事務所があります。
弁護士の場合は、遺言書の形式(自筆証書遺言にするか、公正証書遺言にするか)や内容から相談できるのに対して、司法書士や行政書士の場合は、依頼者の考えた遺言内容に基づいて遺言書の作成を補助するかたちになります。
その代わり、司法書士や行政書士の方が、弁護士よりも報酬が割安になっていることが多いようです。
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