不動産を相続するにはどうしたらいいの?相続登記について解説【行政書士執筆】
相続登記とは、不動産の所有者が亡くなった場合に、その不動産の登記名義を被相続人(亡くなった方)から相続人へ名義の変更を行なうことをいいます。すなわち、被相続人名義から相続人名義へ登記申請することによって、所有者が変わるということです。
この記事では相続登記のために必要な調査や相続登記の流れ、登記をしない場合のデメリットなどについて、網羅的に説明していきます。
相続登記はしなければいけないの?
通常、土地や建物の売買を行った際には不動産登記を行います。では、相続財産に土地や建物といった不動産が含まれている場合には不動産登記を行わなければいけないのでしょうか。
相続登記の期限は3年
2024年4月、相続登記は義務化されました。
相続等により所有権を取得したことを知った日から3年以内に登記をしなければなりません。正当な理由がないのに申請を怠ったとき、10万円以下の過料の対象となります。
登記をしないデメリット
罰金の他にも登記をしないことによって相続人にデメリットが生じる場合があります。
登記をしないと不動産を売却できない
不動産に関する権利は、民法により登記をしていなければ第三者に対してその権利を主張(対抗)できないことになっています(民法177条)。相続不動産を売却する場合、相続人は自らが所有者であることを買主に対して主張できなければなりませんから、登記簿上の所有者になっておく必要があります。
また、不動産の登記は実態に即した形になっていなければならず、被相続人から買主へ直接所有権移転登記をすることはできません。つまり相続不動産を売却する場合には、その前提として相続登記をしてその不動産の所有者になる必要があります。いずれ不動産を売却しようと考えている場合には相続をした段階で他の手続きと一緒に不動産登記をしてしまうことをおすすめします。
相続関係が複雑になる
相続登記をしないで放置しておくと相続関係や相続登記に関する手続きが複雑になってしまう可能性があります。
相続が始まった時点で相続財産である不動産は相続人の間で法定相続分に応じて共有されている状態になります。そして相続登記をしない間に、その不動産を共有している相続人の誰かが亡くなった場合には、亡くなった方の共有持分はさらにその相続人の共有になります。よって、この不動産の相続登記をするための手続が複雑になってしまいます。自分の子供や孫の代に複雑な不動産登記の手続きを残さないためには早めに相続登記をすることが大切です。
差押えを受ける可能性
相続人のなかに借金がある者がいて、その支払いが滞っている場合、債権者に不動産の相続持分を差し押さえられてしまうかもしれません。
不動産は遺産分割協議が終わるまで、共同相続人が法定相続割合に応じて共有している状態になります。債権者は借金がある相続人の法定相続分(不動産の持分)を差し押さえることができます。遺産分割協議が終わっていた場合でも相続登記を済ませていなければ、相続人は差押えをした債権者に対して不動産が自分のものだと主張することはできません。民法909条で遺産分割の効力は第三者の権利を侵害できないと定められているからです。
このような差押えが適法なものであれば、最終的に遺産分割協議などで不動産のすべてを取得したい共同相続人の一人は、差押えをする債権者に対して他の相続人の借金を肩代わりして差押えを解いてもらう必要があるでしょう。
相続登記の前提となる調査
相続登記をするためには、まず相続財産に不動産が含まれているかどうかを調査し、自分が相続人であることを確認することが前提となります。
相続財産の調査
まずは名義変更の対象となる不動産が相続財産に存在しているかどうかを調査します。具体的には被相続人が所有者などになっている不動産があるか、及びその不動産の担保権者、固定資産評価額などを調査します。不動産が相続財産に含まれているかどうかの調査は被相続人名義の登記事項証明書があるかどうか、または固定資産税の納付通知書があるかどうかなどの方法で行います。
相続人の確認
法定相続人を確定させるにあたって、まずは、被相続人に配偶者(夫・妻)がいれば、その配偶者は必ず法定相続人となります。配偶者の他には、子供、親、兄弟姉妹の順で相続人に該当します。被相続人に配偶者や子供、親などが存在するかどうかは、被相続人の死亡時の戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)により証明します。
相続登記の流れ
ここからは相続登記の申請に関する流れを説明していきます。大きく2つに分けると、申請に必要な書類を作成してそれを法務局に対して申請するということになります。
必要書類を収集/作成
登記申請をするときは必要書類を集めなくてはなりません。登記簿謄本に記載されている内容によっては、後述の戸籍謄本以外にも書類を集めなくてはならなくなるので司法書士に依頼するといいかもしれません。
被相続人の戸籍謄本/除票
相続人を確定するために戸籍謄本や除籍謄本が必要になります。被相続人の記載のある戸籍謄本は1通ではありません。
たとえば、転籍や婚姻などをされている場合、転籍前や婚姻前の本籍地所在地の市区町村で、除籍謄本や改製原戸籍を取得しなければなりません。また、現在の戸籍謄本がコンピューター化されている場合、コンピューター化する前の改製原戸籍も取得しなければなりません。
これらの書類は相続人の方でも取得できますが、何回も転籍されているような場合や遠方の市区町村に行かなければならない場合、手続きはかなり煩雑になります。
相続人全員の印鑑証明書/住民票
法定相続の割合にて相続登記を行うときには相続人全員の住民票が必要となります。
遺産分割協議書にて、不動産の所有者の名義を替える相続登記を行うときには、所有者となる相続人の住民票と、相続人全員の印鑑証明書が必要となります。このため、事前に自治体に対して印鑑登録をしておく必要があります。なお、相続人が1人の場合や遺言書がある場合、調停調書・審判書がある場合には例外的に印鑑証明書が不要となります。
相続登記における必要書類(印鑑証明書含む)は原則として原本還付が可能ですので、他の手続きで必要な書類があった場合には原本還付で申請をして再利用すると良いでしょう。
不動産の固定資産評価証明書/全部事項証明書
相続登記にかかる登録免許税を計算するためにはこれらの書類が必要です。固定資産評価証明書の取得方法は、窓口で取得する方法と郵送で取得する方法の2通りがあります。窓口は市区町村の役所、出張所、また駅などにある証明書発行コーナーで必要書類を提出して発行することができます。発行時には、固定資産評価証明等請求書に、必要な方の住所、氏名、成年月日、評価証明が必要な資産の住所等を記載します。
遺産分割協議書または遺言書
法律で定められた法廷相続分以外の割合で相続をする場合に必要です。遺産分割協議をした場合は遺産分割協議書、遺言があれば遺言書が必要になります。遺産分割協議書の作成には多くの気をつけるべき点が存在するので専門家と一緒に作成することがおすすめです。また、遺言書は家庭裁判所で検印を受けなければなりません。
相続登記申請書
登記所に申請するための書類です。申請人の方がご自身で申請されたい場合はご自身で作成することとなります。司法書士に依頼している場合は司法書士が作成します。登記に関する申請書は法務局のホームページなどでフォーマットが公開されています。
登記申請
登記申請書やその他の必要書類の準備が整ったら、登記申請を行いましょう。登記申請は窓口申請、郵送申請、オンライン申請の方法があります。
窓口
申請書類一式が用意できたら登記の申請をします。登記の申請は、「不動産の所在地を管轄する法務局」に対して行います。登記申請人等の住所地ではないので注意してください。また、申請をする法務局を間違えると、却下や取下げの対象になってしまうので気を付けましょう。法務局の業務取扱時間は、原則、平日8時30分から17時15分までとなります。登記申請はこの時間内にしなければなりません。
郵送
郵送申請をする場合には、申請書一式を入れた封筒の表面に、「不動産登記申請書在中」と赤字で記載して書留郵便で送付をします(簡易書留やレターパックでも可能です)。郵送申請の場合には、法務局で事前にチェックをしてもらうことができませんので、書類にミスがないように念入りに確認をしておきましょう。
また、登記完了後の書類を返送してもらうために、返送用の封筒と切手を多めに同封しましょう。本人限定郵便で返送され、余った切手も返送してもらえます。郵送申請の場合の登記完了予定日は、各法務局のホームページから確認することができます。郵送申請は、登記申請書が法務局に届いてから受付されるため、窓口での書面申請よりは登記完了予定日が多少遅くなります。そして郵送申請の場合には、窓口に申請書を提出する場合と異なり、登記相談を直接受けることができないため不備があると非常に厄介です。
郵送申請をする場合には、間違いが許されないものと自覚して一発で登記を受理させるくらいの意気込みがないといけません。自信がないのであれば、遠方の法務局であったとしても直接その法務局で相談をしながら進めるか、専門家である司法書士へ依頼をすることをおすすめします。
オンライン
オンライン申請をするためには、各種ソフトのダウンロード、電子署名ができる環境などが必要となります。オンライン申請の場合には、手数料(登録免許税など)の納付は電子納付で行います。インターネットバンキングやモバイルバンキング、ATMを利用することが可能です。(登記申請には必要な添付書類は法務局へ別途郵送または持参する必要があります)前述したとおり、オンライン申請には電子署名と電子証明書が必要になります。
「オンライン」で申請をすると聞くと、パソコンを用いてインターネットに接続できれば可能なようにも思ってしまいがちですが、電子署名・電子証明書が必要になるうえに、簡単に使いこなせるとも限りません。普段から慣れている司法書士や土地家屋調査士のような専門家以外の者がオンライン申請の方法で登記をすることは難しいと言えるでしょう。
自分でやるのか? 依頼するのか?
最後にここまでの手続きを自分でやる場合と司法書士に依頼する場合を比べて見ましょう。
相続登記の依頼は司法書士
司法書士はこれら不動産の登記の専門家ですので,大切な財産である不動産について生ずる様々な法律関係や登記実務について的確なアドバイスをすることができます。また、「必要書類を収集/作成」で紹介した書類についても司法書士は詳しいので、依頼をするのが一番いい選択だと思います。
自分で申請するメリット
相続登記を自分で行なうメリットは、報酬を支払うことがないことです。それ以外のメリットはほとんどないでしょう。ある程度、法律面・税金面での知識があり、時間に余裕がある方であれば、ご自分で行なうことを選択されるのもよいかもしれません。また、相続人がお一人で各種必要書類の準備が少ない場合もよいかもしれません。
自分で申請するデメリット
相続登記を自分で行うデメリットは、書類の収集に時間がかかることや、複雑な権利関係を理解できず、何度も申請をすることになってしまう所です。相続人が全国に分散していると全員の印鑑証明書などの書類を集めるのも大変ですし、他の相続手続きが滞ってしまうこともあるでしょう。
司法書士に依頼するメリット
相続登記を司法書士に依頼することのメリットは相続人全員の戸籍や住民票の取得などについて、自分で行なうよりも、必要な書類を速やかに的確に取得することができますので、手間がかからないことです。また、法務局では申請内容についての相談はできますが、相続全体についての相談はうけてくれません。登記の専門家である司法書士は、相続においても様々な事案・事例を経験されている方が多いので、円滑に相続手続きを進めるにあたっての相談先として適した専門家の一人でもあります。
司法書士に依頼するデメリット
司法書士に依頼することのデメリットは報酬がかかることです。相続登記に関する司法書士への報酬は一件当たり10万前後が多いです。この報酬額を払いたくなければ、時間をかけて自分でやるしかありませんが、依頼することでその他の手続きについても聞くこともできますし、専門家に任すことでスムーズに手続きを進めることが期待できます。
まとめ
相続登記の流れや、必要な書類などについて紹介してきましたが、それぞれにかかる時間や必要な書類の量は事例によって様々です。また、不動産の数が多いとそれだけで相続登記にかかる時間は長くなってしまいます。
相続登記を速やかに的確に行うためにも、一度専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
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この記事を書いた人
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