預貯金を遺産分割協議で相続するには?|遺産分割協議書の書き方や銀行での手続き【行政書士監修】
多くの場合、故人が残す相続財産の中には預貯金も含まれています。銀行などに預けられている預貯金は、現金と同じく遺産分割の対象となる財産です。そのため、遺産分割協議が終わるまでは基本的に、口座からお金を引き出すことはできません。
この記事では、相続財産に預貯金があるときの遺産分割協議書の書き方、銀行での手続きに必要な書類などについてご紹介します。
目次
相続財産に預貯金があるとき
被相続人(亡くなった人)の相続財産に預貯金があるときの手続きは、
- 遺言書に口座の相続人が指定されている
- 遺言書はあるが口座の相続人は指定されていない
- 遺言書がない
のどれか、で変わってきます。
遺言書に口座の相続人が指定されている場合
遺言書に口座を相続する人(受遺者)が指定されているときには、手続きをするのは受遺者(選任されているときには遺言執行者)です。
受遺者自身が手続きするときには以下のような書類が必要になります。
- 遺言書
- 被相続人が亡くなったことがわかる戸籍謄本
- 受遺者の実印
- 受遺者の印鑑証明書
- 手続きする口座の通帳など
遺言書が法務局にて保管されていない自筆証書遺言または秘密証書遺言のときには、検認済証明書も必要です。遺言書が公正証書遺言のときには、遺言公正証書正本を用意します。
払戻しではなく、名義変更をするときには、受遺者名義で印鑑届を提出します。金融機関によっては、これ以外にも依頼書などが必要です。
遺言による遺贈とは
遺言書によって財産を誰かに譲ることを「遺贈」といいます。財産を受け取る人の名称は、相続人ではなく、「受遺者」です。さらに「〇〇のマンションを譲る」というような譲るものを指定して遺贈することを「特定遺贈」、「財産の〇割」というように割合で指定することを「包括遺贈」といいます。遺言書では、法定相続人を受遺者とすることも可能です。そのようなときには、原則として法定相続分の割合に関係なく、遺言の内容が優先されます。
遺言書があっても、包括遺贈で割合だけ決められているときや受遺者とすべての相続人が同意して遺言書とは異なる割合で相続をすることにしたとき、または、遺言書がないときには、「遺産分割協議」が終わらないと口座の払戻しや名義変更はできません。
相続財産に預貯金があるときの遺産分割協議
遺産分割協議は、相続財産について「誰が何を相続するか」相続人全員で具体的に話し合うものです。
話し合いの結果は「遺産分割協議書」にまとめ、署名と実印での押印をします。遺産分割協議の前に、被相続人が取引していた金融機関に「残高証明書」を請求します。これにより、被相続人の預貯金の正確な金額がわかります。
遺産分割協議書には決められた書式はありません。相続人や提出先の担当者がわかりやすいように書きましょう。
預貯金に関しては、相続の仕方によって書き方が変わります。
口座ごとに承継する人を決めたときの記載の仕方
被相続人が複数の口座を持っているときに、口座ごとに相続人を決めた場合は、以下のように記載するといいでしょう。
複数の相続人でひとつの口座を相続すると決めたときの記載の仕方
不動産とメインバンクの口座を配偶者に、残りの預貯金を子にというようなケースでは、口座と相続人が1対1に決められるかもしれませんが、そのように分与できるケースはあまり多くないでしょう。そのようなときには、ひとつの口座を複数の相続人で承継します。
複数の相続人でひとつの口座を相続するときに、それぞれの口座に振り込みをしてくれる金融機関もありますが、すべての金融機関で対応してくれるというわけではありません。そのようなときには、代表者を決めて手続きをし、その代表者がほかの相続人に分配します。
代償分割によって分与することを決めたときの記載の仕方
「代償分割」は、一般的には、不動産など分割できない財産を相続した相続人が、その価値に見合った現金をほかの相続人に支払うことで平等な分割を行うものです。この方法は、口座の相続でも利用できます。
代表者を決めて分配する方法では、口座ごとに代表者が払い戻された金額を遺産分割協議書に従って分配しなければならないので、口座の数が多いときなどは大変です。一方、代償分割では、複数の口座を払い戻し、指定された金額を分配するため、代表者の負担が減ります。
遺産分割協議書には、代表者が預貯金を取得する旨を記載した後、代表者が「代償金として」そのほかの相続人に相続分の金額を支払う旨を記載します。
「代償金として」という文言を入れることで、
- 税務署に贈与と間違われるのを防ぐことができる
- 代償金が支払われないときに遺産分割協議書を証拠に請求できる
というメリットがあります。
なお、口座ごとに分配をしても、代償分割によって分配をしても税制上の違いはありません。
残高証明書について
被相続人の預貯金の額を正確に知るためには、残高証明を請求します。「通帳に記帳がされていれば。残高は同じ」と考える人もいるかもしれませんが、通帳と残高証明書で残高が異なるケースもあるので、請求した方がより正確な金額を知ることができます。
残高証明書には、発行時に依頼することでその銀行で被相続人が取引していた口座をすべて記載してもらえるため、家族の知らない借り入れが見つかるということもあります。発行してもらう残高証明書の日付は、被相続人が亡くなった日(相続発生日)です。日付を間違うと相続税の申告のとき再発行が必要になるので注意が必要です。
また、定期預金では既経過利息(被相続人が前回利息を受け取った以降の利息)を元本に上乗せした金額で相続税の申告をおこないますので、この計算も依頼します。普通預金などでは金額が少なければ、利息は含めずに申告が可能です。
口座の凍結について
銀行など金融機関に被相続人が亡くなったことを連絡すると、口座はすべて凍結されます。公共料金の支払いを被相続人の口座から引き落としているときには、変更などの手続きを急いでおこなう必要があります。
被相続人が個人事業主のときには、事業用の口座も凍結されます。取引先への支払いなどが滞ると信用問題に関わりますので、事業を承継する予定の人は、できれば被相続人の生前から対応を検討しておきましょう。
遺産分割協議書がないケースについて
遺産分割協議をおこなっても遺産分割協議書がないケースは、次の3つが考えられます。
- 話し合いがまとまらず調停になった
- 話し合いがまとまらず審判になった
- 遺産分割協議をしたが遺産分割協議書を作成しなかった
遺産分割協議で話し合いがまとまらないときには、「遺産分割協議の調停」や「遺産分割協議の審判」になります。そのときは、それぞれの結果を記した「調停調書」「審判書」の提示が必要です。
遺産分割協議の調停と審判
相続人同士の遺産分割協議がうまくいかなかったときには、家庭裁判所に「遺産分割協議の申立」をします。これが「遺産分割調停」です。遺産分割調停では、家庭裁判所にて相続人同士が話し合いをします。それでもまとまらないときおこなうのが「遺産分割の審判」です。遺産分割の審判では、裁判所が遺産をどのように分けるかについて決定します。決定を受け入れられないときには不服申し立てができますが、同じことを繰り返すだけになってしまうので、最終的にはなんらかの形で全員が同意するようにしなければなりません。
相続の手続きの中には、遺産分割協議書がないとできない手続きもありますので、多くないケースではありますが、遺産分割協議をしても遺産分割協議書を作成しないことがあります。そのようなときは、銀行所定の相続手続き書類に全相続人が署名・押印をすることで手続きをおこなうケースもありますが、一度まとまった協議の蒸し返しを防ぐためにも遺産分割協議書の作成をおすすめします。
遺産分割協議書がないケースでは、
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
- すべての相続人の戸籍抄本、または戸籍謄本
- すべての相続人の印鑑証明書
- 手続きする人の実印
- 手続きをする口座の通帳など
上記のようなものが必要になります。
遺産分割協議で相続するときの手続きの方法
遺産分割協議で相続するときの払戻しや名義変更の手続きは、金融機関によって多少異なりますが、
- 被相続人が亡くなったことを連絡
- 必要書類を提出
の2ステップで完了します。
口座のある支店が遠方のときには、最寄りの支店の窓口で対応してくれる金融機関も多いですが、最初の連絡は口座のある支店に連絡をすると銀行側での確認作業がスムーズです。金融機関によっては専用の電話番号やインターネットによる受付をしていることもあります。
手続きには多くの金融機関で以下のものが必要です。
- 遺産分割協議書
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
- すべての相続人の戸籍抄本、または戸籍謄本
- すべての相続人の印鑑証明書
- 手続きをする人の実印
- 手続きをする口座のキャッシュカードなど
- 印鑑届(名義変更のときのみ)
戸籍関係の書類について
被相続人の「出生から死亡までのすべての戸籍謄本」は、過去に家族の知らない子や養子がいるとその人も相続人となるため、そのような人がいないことを証明するために提出します。
戸籍は結婚や本籍地の変更などで新しく作られるため、これらの戸籍を亡くなったときの戸籍から順に遡ることで取得可能です。
一方、「すべての相続人の戸籍抄本、または戸籍謄本」は、被相続人との関係を証明するために提出します。同一の戸籍に名前があるときなど、被相続人の戸籍謄本で証明できるときには提出の必要はありません。また、戸籍抄本と戸籍謄本の違いは、その戸籍に記載されているひとり分の情報が記載されているか、全員分が記載されているかです。
印鑑証明書について
「印鑑証明書」は、お住いの市区町村に登録している印鑑(実印)の証明のために交付されます。印鑑登録をしていない人は、先に登録をしましょう。
法定相続情報一覧図について
戸籍に関する書類は被相続人と相続人との関係などを示す「法定相続情報一覧図」を法務局で登録すると1枚で済みます。法定相続情報一覧図の登録や写しの交付は無料なので、必要書類の手数料を節約したいときにも有効です。
被相続人の口座が把握できていないとき
被相続人が亡くなったときに、メインバンクは知っていてもそれ以外に取引している金融機関がわからない、メインバンクに普通口座以外もあるのかわからない、といった人は少なくないでしょう。そのようなときには、いくつかの方法で口座を探すことができます。
具体的には
- 通帳やキャッシュカードを探す
- 金融機関からのダイレクトメールを探す
- パソコンのブックマークをチェックする
- スマートフォンのアプリをチェックする
- メールを確認する
- 通帳がみつかっている口座への被相続人名義の振り込みを探す
のような方法です。
近年は、多くの人がインターネットバンキングを利用されているので、ブックマークやアプリ、メールから口座をみつかられることがあります。
特に、インターネット銀行では、キャッシュカードがはじめからないケースもあります。また、このような口座の場合、ATMからお金を引き出したいときや口座に入金したいときに、被相続人名義の別の口座との間で振り込みがおこなわれている可能性が高いので、通帳の履歴も確認します。
名寄せについて
残高証明書を金融機関に請求する際には、被相続人名義の全ての口座を記載するように発行依頼をすることができます。これが名寄せです。
名寄せは、もともと金融機関が破綻してしまったときに、ひとりにつき1,000万円まで保護されるという預金保険のためにあります。しかし、相続では相続人の知らなかった借り入れや定期預金などが見つかることもあり便利です。
現存調査について
ゆうちょ銀行については、口座の有無がまったくわからなくとも「現存調査」を依頼すると、口座の有無を確認してくれます。ゆうちょ銀行や郵便局の窓口などにある依頼書に必要事項を記入して依頼します。
大手銀行の相続手続きの方法
相続手続きの方法は銀行ごとに異なります。
必要書類などは、それぞれの銀行のホームページなどで公開されていますが、取引内容によって必要な手続きは変わることもあります。実際の手続きの際には銀行窓口や銀行サイトにて確認しましょう。
専門家に相談した方がいいケース
遺産分割協議書による口座の相続手続きは、相続人自身でおこなうだけでなく、専門家に依頼することもできます。以下のようなときは、専門家への依頼を検討してください。
- 時間がなく必要書類が揃えられない
- 遺産分割協議に立ちあって欲しい
- 被相続人の財産の調査をして欲しい
相続税の申告に関わる相談は税理士、金融機関や不動産を含む遺産分割協議書の作成は司法書士や行政書士、相続人間の調整や遺産分割協議の立ち会いなどは弁護士に依頼すると良いでしょう。
遺産分割協議書があるときの預金の相続についてよくある疑問
遺産分割協議書があるときの預金の相続についてよくある疑問とその答えをご紹介します。
Q:遺産分割協議書には預金の残高を書いた方がいいですか?
遺産分割協議書に残高の記載に関する決まりはありません。しかし、遺産分割協議をおこなっている間も利息が発生するため、差額が発生してしまうことがあります。そのため、金額は財産目録だけに記載し、遺産分割協議書には書かない方がいいでしょう。
Q:亡くなった父の口座を兄妹で相続することはできますか?
ひとつの口座を複数人で相続することも可能です。そのようなケースでは、相続人がそれぞれ何割ずつ相続するのかを遺産分割協議書に書くといいでしょう。そのうえで、代表相続人が払い戻し、そのほかの相続人に振り込むのが一般的です。
Q:亡くなった父の保有する口座の数が多く、相続人を決めるのが難しいです。どうすればいいですか?
このようなケースでは、まず、代表相続人がすべてを受け取り、相続の割合に応じて分配する代償相続の形をとるのがいいでしょう。遺産分割協議書にもその旨を記載すると、万が一代償金が支払われなかったときや税務署に贈与と間違われたときなどにトラブルを防げます。
Q:相続の手続きのため銀行に連絡をしたら口座が凍結されました。配偶者には十分な貯金がないので、葬儀費用や当面の生活費が支払えません。どうすればいいですか?
遺産分割前の相続預金の払戻し制度を利用してください。葬儀代や当面の生活を引き出せます。
Q:父の口座は遠方の実家近くの支店にあります。相続の手続きのためにその支店までいかないといけませんか?
相続の手続きが郵送で行われる銀行もありますし、どの支店でも手続きできることもあります。まずは相続窓口、または口座のある支店に連絡して確認してください。一部銀行では、口座のある支店以外では手続きできないので、どうしても窓口に行くのが難しいときには金融機関や専門家に相談しましょう。
Q:手続きをする口座が多いのですが、戸籍関係の書類や印鑑証明はその数だけ用意するのですか?手数料を節約したいです。
原本還付という方法があります。これは、指定された方法でコピーをし、原本とコピーを提出すると、原本を返却してもらえるというものです。また、法定相続情報一覧図を作成し、写しを発行してもらうと戸籍関係の書類は多くの手続きで不要になります。登録や写しの発行は無料なので検討してください。
まとめ
遺産分割協議書があるときの口座の相続では、
- 遺産分割協議書
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
- すべての相続人の戸籍抄本、または戸籍謄本
- すべての相続人の印鑑証明書
- 手続きをする人の実印
- 手続きをする口座の通帳など
などが必要です。
手続きは
- 金融機関に連絡する
- 必要書類を提出をする
基本的にはこの2つになります。
被相続人が亡くなったことを金融機関に連絡すれば、取引内容にあった手続きの案内をしてもらえますので、指示に従いましょう。被相続人が亡くなったことを連絡すると口座は凍結されてしまいますので、公共料金の引き落し口座などの手続きを同時することも忘れないでください。
時間がないなどの理由で必要書類を揃えられないようなときには専門家に依頼することもできます。
「いい相続」ではお近くの専門家との無料相談をご案内することが可能ですので、遺産分割協議による口座の相続でお困りの方はお気軽にご相談ください。
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