住宅購入など合意を明確にしなければトラブルになる可能性が高い売買では、日常生活でも契約書を交わすことがあるかと思います。
ビジネスの現場でも、いつどこで誰がどうするかという当事者の取り決めが明確になっていなければ「振り込みが完了していない」「商品に不具合がある」「商品が届いていない」というような様々なトラブルの発生が想定されますが、万が一そのようなトラブルが起きても売買契約書が早急に問題解決へと導きます。

売買契約について

売り手と買い手の「売ります」「買います」の意思の合致が合致するとコンビニで弁当を買う場合でも、不動産などの大きな買い物でも売買契約が交わされたことになります。
会社は商売をするのが常ですから存続している以上売買契約をし続けることになります。日々の活動を支える重要な契約なのです。

売買契約書作成の意義

企業の場合、事業活動に必要な物品の仕入れなどはもちろん、オフィスに設置する机や椅子等の備品の購入など多くの場面で売買契約が交わされます。
個人が行う売買契約に比べて、特定の取引先を相手に継続的な売買契約をすることが多く、取引金額が高額となることが多いのが特徴的です。
そのためトラブルが起こってしまった場合には、迅速に解決する必要があります、そこで想定されるトラブルが発生した場合にどう対処していくかの取り決めを明確にして形に残しておくための書類が売買契約書です。

売買契約締結の注意点

売買契約では、売買目的物が何か代金はいくらかが明確である必要があります。契約に必要な基本の形式を備ていることが第一条件です。
また、トラブルが発生した場合に当事者がどのように解決をするのかについて予め定めておくことで売り手も買い手も安心して取引を進めることができますので、その旨を定めます。

売買契約書の形式に不備があると…

売買契約書の契約事項に不備があった場合、有事のトラブル対応に苦しむことになりかねません。一度トラブルが発生してしまうと責任の所在をめぐる話し合いは簡単には落ち着かないからです。
売買契約の形式が明確になっていなければ、相手に義務の履行を求めることができなくなる可能性があります。義務を履行する前提としての売買契約が成り立っていないと見なされることがあるからです。
代金支払期日になっているのに振込がなされていない商品に不具合があるこのようなトラブルはよく聞きますが、いつまでに振込むべきか不良品をどうするのかは事前の契約条項、つまり契約書に何が書かれていたかによって明確になります。そのため売買契約を締結するにあたっては正しい形式とトラブルを未然に防ぐ取り決めを定めた書面の作成が重要になります。

売買契約書作成例

では具体的に継続的に売買契約を行う企業間での契約書を例にとって売買契約書の中身を見ていきましょう。

(基本契約)
第1条 乙は、以後継続的に甲が販売する商品を買受けるものとし、個別売買契約において特約のない限り、その他の定めはこの契約によるものとする。

今後想定する継続的な売買契約の骨格的部分を取り決める旨を定めた条項です。
継続的に売買する以上、その都度の売買で変動する可能性のない内容については、基本契約という形で定めることによって処理を簡単にします。

(個別売買契約)
第2条 個別売買契約は、乙の提出する注文書と甲の交付する注文請書の交換によって成立する。

第1条で定めた売買基本契約に対応する、個別的な契約について定めます。個別売買契約では、別途用意する注文書に求める商品と個数を記載し、それらの代金が記載された注文請書の交換によって契約を成立させます。それにより細かい取り決めを省略することができます。
注文書、注文請書の形式は、商品が何か、個数はいくつか、代金がいくらかの要所を押さえた記載がなされていれば比較的自由な形式で作成して差し支えありません。

(引渡し)
第3条 甲は、乙の指定に基づき商品を送付して乙に引渡すものとし、引渡に要する運賃その他費用は、甲の負担とする。

商品の引渡方法についての定めです。運送以外にも、商品の特性に応じて内容を改変します。
運送を引渡方法とする場合は、運賃等の費用負担は売り手か買い手かなどを定めておきましょう。例では売主(甲)の負担として記載していますが、買主の負担とする場合もあります。

(検品)
第4条 乙は、甲より本商品の引渡を受けた後、本商品に数量不足又は直ちに発見できる瑕疵がある場合には、速やかに甲に通知するものとする。

この規定は義務の履行について定めているため、重要な規定となります。
具体的には商品を受け取った買主が、商品の数量や不備について速やかにチェックし、該当事由がある場合は売主への報告義務があることを定め、報告がなされない場合、買主は該当事由を理由とした返品、交換、損害賠償等の請求ができないとする定めです。
速やかにとはどの程度の期間かや、無作為に抽出した数個のみで検品を行っていた場合にチェックによって発見できずに通知が遅れてしまった場合の対応など、当事者で協議が行える場合は契約条項として追加しましょう。

(危険負担)
第5条 商品の引渡完了以前に生じた商品の滅失、毀損、その他の一切の損害は、甲の責に帰すべきものを除き乙の負担とする。

これは民法534条の規定ですが、買主の立場から見ると厳しい規定のため、協議の上本条項を削除することもよくあります
具体的には商品を運送中に運送トラックが事故で大破し、中の商品も滅失してしまったような場合、売主に帰責性(責任を負わせる理由)がない限り買主乙は代替の要求ができないことを定めています。

(返品)
第6条 甲は、乙の設定する品質規格基準等に基づき不合格となった商品、契約数量を超過した商品及びその他個別契約等により返品できる商品を、甲の費用をもって、甲の通知受領後1週間以内に引取るものとする。乙は、甲の費用をもって当該商品を返送する。

返品の必要が生じた場合に返品の作業や、費用を誰がどう負担するかを定めるものです。通常、返品の必要がある場合は、売主の不手際等が想定されますので、例では費用負担を売主甲に設定しています。

(代金支払方法)
第7条 乙が甲から買受けた本商品の代金は、毎月月末締切の翌々月○○日に現金にて甲に支払う。
    2 前項の代金の支払を遅延したときは、商品代金に年〇〇%の計算による遅延損害金を支払うものとする。
    3 乙は、甲が毎月発行する請求書を受領したとき、速やかにその正否を照合し、差異がある場合は、直ちに具体的事由を記載した書面を添えて甲に通知することとする。

代金の支払方法については、現金、振込、小切手等様々な方法がありますが、例では現金払いについて定めています。振込払い等を選択する場合は、振込先の口座を項目に追加しましょう。
また、継続的売買契約の場合は、何日までに代金を支払わなければならないかという締め日と支払日の項目を定める必要があります。
支払日を過ぎても支払いがなされない場合は利息の支払いを別途請求することとなりますのでその旨も項目に追加します。一般に年10%以上の定めがなされていることが多いですが、元金の金額によっては利息制限法により利息の設定に上限があるため、行政書士など法律専門家に相談すると良いです。

(契約の解除)
第8条 乙が、次の各号の一つに該当する場合、期限の利益を失い、甲は乙に対し催告をしないで、直ちにこの契約及び個別契約を解除できる。

  1. この契約あるいは個別契約の条項に違反したとき
  2. 監督官庁より営業取消又は停止等の処分を受けたとき
  3. 銀行取引停止処分を受けたとき
  4. 第三者から強制執行、差押、仮差押、仮処分等保全手続を受けたとき
  5. 破産、民事再生、会社更生あるいは特別清算の申立を受けたとき
  6. 信用状態悪化等あるいはその他契約の解除につき、相当の事由が認められるとき

相手方が各項に該当するような状況に陥っている場合、売買契約を維持していても代金を支払ってもらえない状況になる可能性が極めて高いです。
そのため規定で相手方に経営上の不審点がみられる場合、代金について支払期日を待たずして請求ができ、また直ちに契約の解除ができる旨を定めています。
また現在発生している代金も、悠長に支払期日まで待っていては満足に回収できなくなる可能性がなくなるリスクがあるため、この規定を設けることによって早急な対応が図れます。

(有効期間)
第9条 本契約の有効期間は、平成○○年○○月○○日より満1年とする。ただし、期間満了の○ヶ月前までに、当事者の一方又は双方より、書面による契約条項の変更又は解約の申入れがなされない場合は、同一の条件にてさらに満1年自動的に更新されるものとし、以後も同様とする。
    2 本契約の有効期間中であっても、甲又は乙は、相手方に対し〇〇ヶ月の予告期間をおいて、本契約を終了することができるものとし、この場合、損害賠償義務は生じないものとする。

継続的な売買契約を定めた場合でも、定期的に契約を更新するかどうかの意思確認の機会を設ける必要があります。
そのため、あらかじめ契約の有効期間を1年と定め、満了一定期間前までに何らかの申入れをしない場合は、自動的に更新する旨と定めています。
また何らかの利益状況の変化で契約を終了する必要が生じた時のために、一定期間の予告期間を相手に通知すれば契約を終了することができる旨も併記します。

(連帯保証人)
第10条 丙は、本契約に基づき乙が甲に対して負担する一切の債務の履行について、乙と連帯して保証の責めに任ずるものとする。

売主にとって、代金回収は最も重要です。そのため、万が一取引の相手方が売買代金を支払えなくなったような場合のために保証人の定めを設けます。企業間の契約の場合、買主側企業の代表取締役を連帯保証人にすることが一般的です。
売買代金が高額に及ぶような場合は保証人だけでは、実際に代金回収することになった場合に不安が残ります。そのため会社保有の不動産への根抵当権の設定などの担保設定についての条項を別途設けることが望ましいといえます。

(秘密保持)
第11条 甲又は乙は、本契約ならびに個別契約に基づく取引により得た機密事項を、相手方の事前の書面による承諾なくして第三者に開示又は漏洩しないものとする。

取引の対象商品によっては企業秘密等が含まれるような場合もあるでしょう。
その場合買主を通じて他にその秘密が漏洩する可能性も否定できませんので、当事者に対して契約によって知り得た相手方の秘密についての守秘義務をこの条項によって設けています。

(専属的合意管轄)
第12条 甲及び乙は、本契約および本契約に基づく個別契約に関して裁判上の紛争が生じた場合は、○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに合意する。

契約当事者の間で紛争状態が発生した場合に、どこの裁判所で裁判をするのかということについての取り決めです。
民法の原則は義務の履行をしなければならない場所から最寄りの裁判所、義務を履行しなければならない者の住所から最寄りの裁判所で裁判が定められていますが、現在では遠隔地間の企業同士の取引も考えられますから、わざわざ遠く離れた裁判所に足を運ぶのは非効率的です。
そのため、契約書に利用する裁判所を取り決めておくことで、遠くの裁判所に出向く労力が発生しないようにしておきます。

(規定外事項)
第13条 この契約に定めのない事項又はこの契約の条項の解釈に疑義を生じたときは、甲乙協議の上定めるものとする。

契約書に書かれていないトラブルが生じる可能性や契約書の解釈に相違が生まれる可能性も考えられます。
その場合でも、甲乙間の協議で円滑に問題解決を探る旨を定めておくことでできるだけトラブルが深刻化しないようにします。


以上、基本的な売買契約における契約書の内容の例とその意味を解説しましたが、契約書は丸写しではなく取引内容に応じて柔軟に改変していく必要があります。
作成した契約書が不備や漏れ、ミスがないか慎重にチェックをすることも忘れてはいけません。条項に穴があれば作成していないのと同じになってしまいます。
チェックができたら、契約日の記載を正確に行い、次に各甲乙丙の氏名を本人の手書きで記入し、最後に実印で押印をします。
この一連の流れを欠くと、どんなに立派な売買契約書も有事の際にただの紙切れになる恐れがあります。不明点があれば行政書士の中には初回相談料無料で対応してくれる契約書のエキスパートも多いですから、相談することをおすすめします。
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